2023年後半に観た映画類の記録

頑張って話題作は観たつもりだったが、数えてしまえばこんなに少ない。ガッカリだ。ガッカリするのもおかしいけど。誰とも、何とも、競ってないし。いや、かつての自分と競っているのか。それは不毛では。

子供に合わせて宮崎駿作品を見直したのは面白かった。大体見た。こんなすごい作品を幼い頃から見てたのか。贅沢だ。

 


12/29【21】

SPY×FAMILY:CODE White』(片桐崇監督)を観た。

途中寝てしまったのは、わざわざ劇場の大画面で見る必要が無さそうなシーンが中盤で続いたから。ファミリー向け大衆アニメ映画なら仕方ないのだろうか。ロイドとヨルの各アクションシーンはテレビシリーズ同様頑張っていたので、あれを前半と中盤にも入れて欲しかった。

クレヨンしんちゃん』的な映画に見えたが、脚本は相当苦労しただろうなと想像した。なぜならば、お互いが正体を隠し合っているという関係の構造上、チームワークを描きにくいため。『皆で舵を切る』というシーンに、その絆的な全てを込める構成はとても上手かった。

小学生が喜びそうな下品なワードが飛び交うシーンは長男にドストライクで、そのサービス精神には感心した。隣で爆笑するから恥ずかしかったけど。

めちゃくちゃ冬を舞台にした映画なので、夏以降のロングランは考えてないのだろうな。

 


12/22【20】

『首』(北野武監督)を観た。

変な映画だった。実力派俳優や個性派俳優が濃い演技で戦っている中に、ビートたけしだけがコントの延長の佇まいで、飄々と存在していた。今までも監督本人が主演の場合はそういうところがあったが、今回は本当に演技らしい演技をしておらず、殺気や悪意を撒き散らすシーンも少なくて不思議さが際立っていた。

『戦(いくさ)を情けなくカッコ悪く汚らしく描く』という至上命題があり、それは成功していた。最初の合戦シーンからして、全くカッコよくなくて、たけし軍団が『お笑いウルトラクイズ』や『風雲たけし城』などで頑張っていた映像を想起した。全体を通して、そんなに印象的なショットは無かった。コント感と時代劇大作映画であることが拮抗していた。

また、主要キャストに殆ど男しか出て来ないことにも非常に意識的だった。戦国時代をカッコよく撮ろうとして無自覚にキャスティングしていたら、異性からの視線や、悲劇のヒロインとして戦乱に翻弄される女性を入れたりするのだろう。そういう作品群とは一線を画していて、男性が争うホモソーシャル社会全体をまとめて茶化しているように感じた。

加瀬亮の迫真の演技が、最も印象に残った。喉を閉めたあの発声と、血管浮き上がらせながら、口汚い尾張弁でおじさん達に罵声や怒号を浴びせる姿が圧巻。

 

 

11/27

『セックス・エデュケーション』(シーズン4)を観始めた。

 


11/5【19】

『ベイビーわるきゅーれ』(阪本裕吾監督)を観た。

とにかくアクションシーンが良かった。特に、スタントマンを出自とする伊澤彩織の多彩かつ複雑な格闘シーンが、鮮烈で新しかった。そこからシームレスに繋がるガンアクションもカッコよかった。どれくらい編集で加工しているのかわからないが、あの高速感は凄い。あれらをちゃんとカメラが捉えていることも良い。

日常会話のダラダラしたシーンは見てて少し恥ずかしかったのだけど、それは『演じてる感』があったからかもしれない。伊澤彩織の演技プランは、どこかで見た松岡茉優の演技を想起させた。声が似ているのかもしれない。

冒頭の妄想シーンは、観客を混乱させるだけで不要に見えた。

 


10/26【18】

『ザ・キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン』(マーティン・スコセッシ監督)を観た。

わかりやすく大きなカタルシスは無く、辛い気持ちがずっと続く。そうなると、物語に展開はあっても、3時間半は流石に長く感じた。このストーリーを映画に仕上げるのが巨匠の手腕かもしれない。

ところどころ、超上からの俯瞰での映像やガラス越しに燃える影の描写など、実験的な映像も散見されたが、基本的には表情と演技を観る映画だった。とにかくどうしようもない男アーネストを演じるディカプリオの感情の揺れ動きと、キングを演じるデ・ニーロのブレない巨悪っぷりが見どころ。美しい眼差しでアーネストを見つめ続けるモリー役リリー・グラッドストーンの存在感もすごい。彼女がアーネストに惹かれたところも少し不思議だったし、彼を見限らないことも不思議なのだけど、あの眼差しには強い愛の存在を示す説得力があった

。また、思い返すと、群衆シーンや機関車のシーンの規模は凄かった。あのコントロールっぷりが凄い。そして、あの人にまとわりつくハエにはどうやって演技させたんだ?

 

 

10/4【17】

ミュータント・タートルズ ミュータントパニック!』(ジェフ・ロウ監督)を観た。

かわいくてカッコよくて、そして、何よりちゃんとティーンエイジャーになっているタートルズ達に感動した。こんな魅力的なタートルズは見た事が無い。

アフター6ジャンクションでの『タートルズ特集』を聴いた後に観たから、異様なまでに映像に入り込んでくる『気持ち悪さ』も意識できた。あのスライムを愛でるような感覚にも、俺は惹かれていたのだ、と気づいた。それは『ジョジョの奇妙な冒険』を好む気持ちにも似ているかもしれない(今作と完全に無関係と言えない点も面白い)。

3DCGの輪郭線に手描き感を出す試みは『THE FIRST SLUM DUNK』でも観たが、今作はラクガキのようなテクスチャーを全体に使っていて、グラフィティっぽい絵作りを目指していた。そうやってヒップホップ文化を取り込む場面が多くて、タートルズ自体が様々な作品のサンプリングの結晶であることを考えると、原点回帰だし、作品の本質に合っていた。

2023年のタートルズTikTok文化にも馴染んでいる描写からは、『ミッチェル家とマシンの反乱』を想起した。

そして、単純にアクションがめちゃくちゃカッコいい。連携の多さがチーム感を増していた。ごちゃごちゃしつつも観やすいアクションを一気に魅せる編集も良い。

観ていて初めて気づいたのだが、タートルズは夜しか活躍しない。どのように光を当てるか、にもかなり気を遣っていた。

観ながら一番気になったのは、人間の顔の歪みだった。人間を全く線対称に描かず、敢えてアンバランスにしている点だった。全体通して整った顔のキャラクターも全く出ない。現実を現実らしく描くための手法である、という意図を感じた。この歪みと美しくなさは、気持ち悪さと同時に、愛着を作っているようだった。

 


9/16【16】

『ドライブ・マイ・カー インターナショナル版』(濱口竜介監督)を観た。

逆光で顔が映らない女性が何かを読み上げる声で始まる映像から、この映画の異形性をひしひしと感じて興奮した。思い出すと、あの映像の雰囲気は森泉岳土の漫画にも似ていた。

3時間もあって、家で見るには時間が無くて、小分けにして観た。

『演じる』ことについての映画になっていた。おそらく原作とは大きく異なるテーマを主題に据えているのだろう。ワークショップを進めながら練習する演劇を軸として、妻の不貞を見て見ぬフリする(演技する)主人公の家福、渡利みさきの母が二重人格の演技をしていた可能性、高槻が語る家福の妻の話は嘘(演技)なのか、と演技と非演技の境目が曖昧な描写を積み重ねつつ、公園でのワークショップの中では演技の中に『何か』が生まれる瞬間を確かに捉えている。劇映画という演技前提のフィルターの中にこのシーンを入れることで、演技にレイヤーを感じて、自分が観ている映像が何なのかわからなくなる。

また、高槻を演じた岡田将生が車内で滔々と語る演技が凄まじい。面白味の無いショットの中に、延々と続く鬼気迫る言葉の羅列。その意味不明さに圧倒された。

車が主人公とも言える映画だが、車のビジュアルもすごく見栄えが良い。広島の美しい景色の中を走る映像は観てて飽きない。

ラストシーンはよくわからなかった。なぜ韓国に犬と一緒にいたのか、と言う点には飛躍を感じた。

アカデミー賞を受賞していたけど、アメリカでウケるようには思えず、村上春樹力が作用している気がした。カンヌは好きそう。

 


9/7【15】

紅の豚』(宮崎駿監督)を久々に観た。

改めて、監督は飛行機が本当に好きなのだと知った。飛ぶシーンに感じる気持ちよさ、飛行機が機械として動く面白さに、とてもフェティッシュなものを感じた。

観ているうちに、豚がカッコ良すぎることに気づいた。その声、台詞、仕草。彼が豚だからそのチャーミングさで見てられた。男前がやってたらつまらないキザさだ。

前から変な映画だと思っていたが、最後の無様な殴り合いからの大人っぽい終わり方は気持ちが良い。

 


9/6【14】

『バービー』(グレタ・ガーウィグ監督)を観た。

他人事だと思えている時には爆笑できるが、自分が男性である以上、免れられない居心地の悪さがあった。『プロミシング・ヤング・ウーマン』ほどの激しさは無かったが、観た後の気持ちは似ていた。

ドラマ『セックス・エデュケーション』からのキャスティングが多かったのは、きっとあの作品の啓蒙性などへのリスペクトからなのではないか、と想像した。女性性が抱える生きづらさと男性性の滑稽さと悲哀をここまで言い当てている映画は無かったし、その鋭い眼差しのままエンターテインメントにしている点に驚いた。

とはいえ、結構変な映画であることは間違い無い。この映画を観る上で現実に対してバービーランドがどう存在しているのかという点は、かなり不可思議かつ曖昧であり、観客にその遊びへの理解を求める行為はかなりハイレベルだと言える。パンフレットによると、『オズの魔法使い』や『トゥルーマン・ショー』を引用元として挙げているが、物語の構造的に一番大きな引用元は『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』ではないだろうか。『フリー・ガイ』にも相似している点はあったが、今作は引用しているのではなく、意図せず似たのではないだろうか。

ケンがバービーランドを悪くしてしまうマチズモの象徴として、時計・車・馬・筋肉などのアイテムを使っていたのは、有害さと直結させてもいいのかな、という躊躇いは感じた。どうしても滑稽に見えてしまうのだけど。

全体を通して音楽が鳴り続けるミュージカル映画であり、歌と音楽に溢れたコメディ映画だったことは意外だった。Twitterで「男女の分断を感じる」等の意見も見かけたが、有害な男性性を排除することができれば、女性だけではなく男性も生きやすくなるはずだ、とケンの姿を見ればわかる。広く観られるために考え抜かれた脚本だった。

 


3/24〜9/1【13】

『マンダロリアン』(シーズン3)を観た。

グローグーをどこかに無事に届けるという主目的が失われ、物語としての推進力は弱くなっていて、サブストーリーみたいなエピソードが増えた。そうなると、そこまで必死に観なくなるので、何となく放置してしまった。まあ、これはこれで『子連れ狼』みたいな時代劇に近くなっているかも、という感覚もあった。マンネリを肯定すべきかどうか。サンダーキャットやジャック・ブラックやリゾみたいな豪華ゲストだけではそれも打破できまい。

人間関係もやたらと複雑化してきたし、マンダロアの掟が柔軟化してきてよくわからないし、裏切り者がいるっぽい描写も解決しなかったりして、不完全燃焼な印象もあった。

特筆すべきアクションはジェットパックを使った空中戦が増えた点だろう。途中、どうやってCGを足しているのかわからないような、高低差を使って大きな空間を表現するカメラワークにはとても驚いた。

 


8/22【12】

千と千尋の神隠し』(宮崎駿監督)を久々に観た。

10代の頃に観た時には、『千尋の成長が早過ぎてついていけない』という印象があった。今回、観直してみて、その印象自体はやはり残っていて、全体的にテンポが良過ぎて、展開の早さを感じた。同時に、千尋が片足だけ前に出して階段を降りる姿などを見て、千になる前の鈍臭さの描写などが緻密だと気づいた。成長も緻密な描写を積み重ねているのだろうけれど、それ以外の情報量が増え過ぎていて、気づきにくかったのだろう。

途中と最後の一応の解決シーン後に訪れる祝祭的シーンは、その馬鹿騒ぎっぷりに毎回笑ってしまう。

空から二人が落ちる名シーンも、何度見てもその想像力の凄まじさに圧倒される。涙が天空へ!

親目線で見ると、千尋は理不尽なトラブルに巻き込まれた可哀想な子だった。父親は登場している時間が短いのに、欲望のままに動いている印象をちゃんと醜く残していた。「近道だ」と無計画に山道を走って迷子になるのはどうかと思うし、「後でお金を払えば良いだろう」と勝手に飲食店のご飯を食べてはいけない。アウディはよく協力したな。懐が深い。

最後まで観て、観客の知らない・わからないルールで物語が動いていく点が、やはり『君たちはどう生きるか』に繋がっている作品だと感じた。

 


8/18【11】

ミッション:インポッシブル/デッド・レコニング PART ONE』(クリストファー・マッカリー監督)を観た。

ずっと爆笑してた。トム・クルーズへの感謝の念が絶えなかった。1秒たりとも飽きさせないという狂い気味なサービス精神が凄い。YouTubeで映画公開前から配信してるメイキングも観たが、やはり狂っている。やりたいアクションというより、魅せたいアクションが詰め込まれていた。細い路地での戦闘や、低い天井のトンネルの中を走る電車の屋根の上での戦闘など、アイディアも多彩。それらを脚本にして映画にまとめているのは、監督の手腕なのだろう。身体を張ることや命を賭けることは、映画としての価値を高めるのだろうか?観ていると、確かにCGではまだ得られないスリルが感じられる気がする。何度も息を呑んだし、声を出してしまった。

電車のシーンなどは一作目へのオマージュも感じた。

AI対人間というテーマが、そのまま映画業界の現状にも繋がってもいて、なかなか重大な問題提起にもなっていた。

それにしても、トム・クルーズはあんなに長く全力疾走ができてすごい。劇場で観て良かった。

普通は次作に引っ張るような終わり方をするのに、一作単体で一応のカタルシスが得られる展開もトムのサービス精神の賜物だろう。

次も絶対見る。

 


8/6【10】

となりのトトロ』(宮崎駿監督)を久々に観た。

幼い頃にビデオテープが擦り切れそうなくらい観た記憶があるけど、大人になってからは初めて観た。どのシーンも展開も大方覚えていた。

親世代として観ると、サツキとメイの生活は非常に危なっかしくて不安だった。昔の田舎の感覚はこんなもんだった、という言い訳が不可欠だった。サツキが、ヤングケアラーとして、不在の母の代理を担っていることも不幸に見えて仕方なかった。最後の事件の発端となる病院からの電話も、大人の立場で見ると、サツキとメイが不安になり過ぎて大ごとになってしまったことが、手に取るようにわかった。それは仕方無いけれど、大人と子どもの感じ方をはっきりと分ける描き方には、隔たりへの冷徹さを感じた。

メイがいなくなってから、ネコバスで迎えに行く直前までメイを描かない演出は、そこまでをサスペンスとしてもちゃんと機能させていて、意外と怖かった。メイのものかもしれない靴だけ登場させるシーンも覚えていたけど、とても不安を煽る演出だった。

田舎の描き込みが凄くて、水彩で描いた風景画の中でアニメが動くような美しい時間には、見惚れてしまった。おそらく男鹿和雄氏の手腕によるところが大きいのだろう。

トトロやネコバスが動くシーンはどこも圧巻で、あのフワフワとゴワゴワを兼ね備えてそうな毛並みや、躍動感溢れる跳躍と飛翔には子どもが喜ぶワンダーが詰まっていた。

 


7/30【9】

天空の城ラピュタ』(宮崎駿監督)を久々に観た。

やはりジュール・ベルヌ的な冒険譚として最高の映画だった。子どもが『君たちはどう生きるか』を観て、スタジオジブリに興味を持ったので、『もののけ姫』『天空の城ラピュタ』『風の谷のナウシカ』を観た。その中で、全て一緒に観られたのは『天空の城ラピュタ』だけだった。

ストーリーが絶え間なく展開していく。この詰め込み感が子供を飽きさせないのだと気づいた。この時期は、まだアニメ表現として漫画的な線を多用していて、漫画の延長線上にあったと気づいた。『未来少年コナン』や『母をたずねて三千里』のような絵のテイストがたっぷり残っていることも特徴的だった。

逆に前作の『風の谷のナウシカ』はそういうテイストが少ないし、書き込みの量も異常で、『天空の城ラピュタ』が一作目じゃないことは改めて不思議だった。

 


7/26【8】

君たちはどう生きるか』(宮崎駿監督)を観た。

とても奇妙な感触の映画で、一生懸命にストーリーを追ったり、「なんで?」とか思わない方が大人は楽しめるだろう。児童文学とか世界文学的な物語の飛躍があるから、子どもの方が素直に受け取れそうだ。

宮崎駿の映画らしい観たことのない動きのアニメーションの連続で、そのド迫力と気持ち悪さにはやられた。

途中から、なんか観たことあるフォーマットな気がする、という懐かしさを感じていた。それの一つは『不思議の国のアリス』かもしれない。同時に『千と千尋の神隠し』っぽさも感じていたんだけど、『千と千尋〜』が『不思議の国のアリス』っぽい話だったということにも気づいた。そのフォーマットにファンタジーを加えながら戦時中の話に接続する点がめちゃくちゃ奇妙なんだけど。『千と千尋〜』だけじゃなく、過去作のセルフオマージュみたいに感じるシーンは多かった。冒頭の火事のシーンから、観たことの無い映像で驚いた。あのおどろおどろしさは、『火垂るの墓』へのオマージュもあったんだろうか。山村浩二の作品に似た不気味さがあった。音の鳴り方が凄かった。屋敷の響きとか、床の軋みの広がりとかが、きちんと聞き取れた。

異常に豪華な声優は、誰が誰だかわからなかったけれど、総じて違和感無く聴けた。音楽は若干多過ぎる気がしたけど、子ども向けならいいのかもしれない。

鬼滅の刃』劇場版の冒頭みたいな光の入り方をしているシーンはCGだったのだろうか。緞帳みたいなカーテンもCGっぽかった。