2021年後半に観た映画類の記録

やっぱり『邦キチ!映子さん』の池ちゃんはすごいよ。年間85本なんて観れたことないもん。

https://twitter.com/hokichi_eiko/status/1441238710738116608?s=21&t=3jXVZE8_mNK4HPgLM29Tng

というわけで、遡る形で記録。

 

11/7

イカゲーム』をNetflixで観始めた。

が、1話で止まってしまった。自分がデスゲームにあんまり興味が無いことに気づいたが、続きは見られるのだろうか。

 


12/27【45】

『劇場版 呪術廻戰 0』(朴性厚監督)を観た。

ここぞという場面でケレン味たっぷりに動きまくるアクションがたくさんあって、見てるだけで楽しかった。手描きアニメーションによるアクションの最高峰だった。

エンドロールを観て関わってる人数の多さには驚くが、よく考えれば納得。一番良かったのは、やはり最後の乙骨と夏油の一騎打ちで、乙骨が飛びかかるシーンにピッタリ合わせたギターの音とか大爆笑した。

原作をベースにしつつ、めちゃくちゃアクションが足されていて、後のコミックスで出てくる奴らも大活躍していて、サービス精神が旺盛だった。そのサービス精神のせいかもしれないけど、乙骨はちょっと碇シンジ過ぎたのでは...。緒方恵美を起用した時点で寄せてるけど、「逃げちゃダメだ」みたいなセリフもあったのは、やり過ぎだと感じた。

 


11/27〜12/25【44】

ホークアイ』(シーズン1)をディズニー+で観た。

MCUの最古参ヒーローの一人であるホークアイの初単独ドラマシリーズ。今まで地味な扱いを受けていたので意外だったのだが、制作にかなり気合が入っていて、予算もかかっていたし、MCUの展開に関わる非常に多くの要素を詰め込んでいた。

『インフィニティ・ウォー』〜『エンド・ゲーム』間に犯した罪の清算、後継者への継承、ナターシャを助けられなかったという事実からの復讐、という問題を解決しつつ、超能力を持たないヒーローの苦悩や葛藤を、これまでのMCU作品よりもリアルに細かく描く。

クリスマス公開を前提にしたドラマシリーズになっているのも面白くて、クリスマスツリーやパーティーのシーンが作るホリデームードな美術は観てるだけで気分が高揚した。

そして、過去の名作へのオマージュかな、と思わせるシーンも多々あって、トリックアローを作るシーンは『ホーム・アローン』でケビンが悪巧みしてるシーンにも似ていたし、鮮やかなネオンが光る中でクタクタになってる大団円の場面は『ダイ・ハード』を彷彿とさせた。

第3話のカーチェイスのシーンには、ドラマシリーズらしくない映像へのこだわりを感じた。長回しで興奮と集中を持続させながら、ホークアイとケイト・ビショップの出来たてでチグハグなバディ感も表現するアクションはとても楽しかった。

 


11/16【43】

『シャン・チー テン・リングスの伝説』(デスティン・ダニエル・クレットン監督)をまた観た。

家族に付き合って家で観直してみると、終盤は『仮面ライダー ヒーロー大戦』くらいの感じだった。映画館の迫力を削がれるとこんなもんになってしまうのか。残念だった。前半のサンフランシスコのバスアクションとマカオの足場アクションは、やっぱり最高だった。

 


11/14【42】

『エターナルズ』(クロエ・ジャオ監督)を観た。

夜明けと夕暮れ、そして、雄大な自然を背景とする映像が多くて、これが監督の作家性を象徴する映像美なのかな、と感じた(『ノマドランド』を観てないのが残念)。

夜明けの中での戦闘シーンや、大自然の中で神話さながらに戦う姿には、これまでのMCU作品になかった新規性を感じた。そして、とにかくロケーションの場所が多くて、地球の美しさを捉えた映像が飽きさせなかった。

登場人物達も非常に魅力的にキャラ立ちしていた。エターナルズだけでも10人もいるのに、はっきりとした描き分けがあって似た人はいなかったし、映画オリジナルで付加された多様性も面白く作用していた。マッカリの足の速さの表現もカッコよかった。キャラクターの魅力を伝えるために、各コンビのやり取りで魅せるやり方も上手くて、その関係性自体が多様なあり方をしているのも凄かった。彼らの示す親密さの演技がどれも絶妙な空気を作っていて良かった。その中でも、セルシとイカリスのラブシーンには衝撃を受けた。子どもと見に行くので年齢制限等を調べた時、海外の基準でPG13となっていたのだから、もっと警戒すべきだった。日本の劇場での表記にはPG12とか無かったと思うのだが(まあ、『万引き家族』がPG12くらいなら制限は付けないか)。しかし、PG12がついていても、警戒しなかっただろう。ディズニー傘下の作品だし、アメコミ映画だし、主役は地球人じゃないっぽいし、という思い込みがあったからだ。実際には、明らかにセックスとしか思えないシーンがあった。目を疑った。これもMCUでは初めて踏み込んだ描写と言えるだろう。削ればPG13もつかなかったかもしれないので、あのシーンは監督の強いこだわりだったのだろう、と推測した。

マ・ドンソクの華々しいハリウッドデビューにふさわしい作品だった。

他の人の指摘を見かけて納得したが、確かにイカリスのホームランダー感はヤバかった。

7000年前から英語使ってんのは笑った。

poplife the podcastでも言及されていたが、途中で『サイボーグ009』も連想した。

 


11/9【41】

『TENET』(クリストファー・ノーラン監督)をまた観た。

家で観ると、IMAXの魔力が剥がされて愛すべきバカ映画っぽさが増していた。何度も爆笑した。歩きながら様々な説明を処理する映像には、集中力を保てなかった。そのせいでストーリーはさっぱり追えなかった。逆行の映像の原初的な楽しさを家族でツッコミながら観るのは楽しかった。ジョン・デイビッド・ワシントンの華やかさ、彼のスタイリングのキメキメな感じ、ロバート・パティンソンのカッコよさ、エリザベス・デビッキの世界に溶け込まない美しさも再確認できた。

 


11/1【40】

ザ・ロック』(マイケル・ベイ監督)を久々に観た。

20年ぶりくらいだろうか。ニコラス・ケイジにドハマりしたキッカケになった映画の一つ。無駄に周囲を破壊するカーチェイスと無意味な爆発に爆笑。ものすごい揺れとブレとズームインで勢いを表現するカメラに驚愕。

アオリながらぐるーっと回るカメラを見て、「あ、マイケル・ベイっぽい(『バッドボーイズ』の予告編で見かけたような)!」と初めて気づいた。

冷静に見ると結構変な映画で、脚本が変わった作りをしていた。まず、オープニングからして変わっていて、一応の敵役であるフランク准将の視点で始まり、彼がテロを起こすためにVXガスを強奪する場面とアルカトラズを占拠する場面を丁寧に描いている。このシーンは物語の展開と同時に敵キャラクターの説明にもなっているのだけど、まるでフランク准将が主役のような扱いだ。そして、准将と全然関係無さそうなタイミングで、主役らしきニコラス・ケイジ演じるスタンが入ってきて、彼の説明となる事件を描いた後にショーン・コネリー演じるメイソンも登場し、全てがアルカトラズでの決戦に収束していく。こんな風に映像の主役が目まぐるしく移り変わるので、見てて飽きないが、ガチャガチャした印象にはなった。

今回、「なんでニコラス・ケイジが好きになったんだろう?」と改めて観察していてこのキャラクターのおかしさに気づいた。彼は科学の専門家であり、デスクワーカーのはずである。そのため、アルカトラズの命懸けの現場に出ることになると、怯えたり嘔吐したりする。でも、彼は爆弾の解体のようなハードな現場でも働くし、スポーツカーを超高速で乗り回してカーチェイスもできる。この性質の矛盾を、ニコラス・ケイジは理不尽な現場のせいでクレイジーになっている人として振る舞い、とにかくキレ続けるという演技で解決していたのだ!そして、当時の俺はその怒り方に惹かれた。

実は脚本自体には緻密な描写があったことにも気づいた。フランク准将率いる部隊の人間関係は最初から歪なのだが、実はそれが一緒に従軍した経験の有無で別れている。彼らが合流したタイミングでその説明をしていた。また、スタンの恋人がサンフランシスコに来る展開と、メイソンの娘がサンフランシスコにいる展開の意味にも初めて気づいた。このコンビがアルカトラズで戦うための動機を作ってたのか。意外と練られた脚本だけど、マイケル・ベイの大雑把な感じとニコラス・ケイジのやり過ぎな感じでそれを感じさせなかったらしい。

相変わらず最高だった。

 


10/28【39】

『DUNE/デューン 砂の惑星』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)を観た。

池袋のIMAXレーザーGTで観て良かった。ド迫力!同じ池袋のIMAXレーザーGTで他の映画を観たことがあるが、こんなに映画の中に入れているような心地がしたのは初めて。IMAXの特性を充分に理解した映像になっていた。砂とシャラメとゼンデイヤの美しさを堪能した。シャラメの計算され尽くした前髪!ゼンデイヤが出るたびに画面がIMAXサイズになるのも笑った。

莫大な予算を使ってるのがわかるのだが、ギリギリでアート映画の域に存在していた。地球で撮ったとは思えないくらい徹底して砂漠だった。美術もいちいち最高で、城は巨大過ぎて存在感が凄かったし、スティルスーツはカッコ良過ぎた。

そして、おそらく原作には難解な設定がたくさん付与されているんだろう。その世界観に浸っているうちに、映画の外にある沢山の設定にも興味が湧いた。シールドという設定も面白い。GANTZのスーツみたい。戦闘時に銃器が出て来なかった気がするのだけど、それはどういう理由なのだろうか。みんな短剣っぽい武器で戦っていて、見てる分には面白いが、理屈が気になった。

途中からパラレルワールドの『スター・ウォーズ』を観ているような気分になったのだけど、『DUNE』の原作自体が『スター・ウォーズ』に影響を与えているのだろうか。それとも、今作が『スター・ウォーズ』から影響を受けてるのだろうか。砂の惑星という舞台、サンドワーム、精神操作系の超能力の存在、敵が皇帝、仲間がほぼ全滅で王の後継者だけが生き残る点、他の種族の力を借りる点、などに共通点を感じた。

それと、砂漠の舞台やメカニックのアイディアなどは『風の谷のナウシカ』にも影響を与えてそうだった。他にも『自分が選ばれし者なのか』問題も共通していたけど、これはハリー・ポッターなどにも見られる普遍的なテーマだろう。

めちゃくちゃ途中で終わるのは驚いたが、PART2であの体験をもう一回できるのはめちゃくちゃ楽しみ。

 


10/21〜10/28【38】

『イントゥ・ザ・ナイト』(シーズン2)をNetflixで観た。

前シーズンはまだキャラクターとストーリーのバランスが考えられていたが、今シーズンは途中から後先考えずに進め過ぎてる脚本に思えた。約30分に納めるという制約で説明の足りてない部分もあるかも。今更気付いたけど、ところどころ、『LOST』に似た作りだ。今回の脚本はクリフハンガー要素が強くなり過ぎている。最後の数分でどうやって次の話に興味を持たせるか、に全力を注いでいるために、キャラクターの行動が能力や性格を逸脱するシーンが多く感じられた。ホルストはこんなに天才だったっけ?そもそも、こんなに都合良くオールジャンルの科学に詳しいんだっけ?あれ?なんであの人は発砲したの?などと細かく疑問が湧くことがあった。

一方で、シーズン2から活躍したキャラクターは個性豊かだったが、愛すべきキャラクターはいなかった。シーズン1のキャラクターを妨害する目的で配置された人物が殆どだったからだろう。テアもヘラルドもジアも二人をメインとする総体としての兵士も、みんなそんな感じだった。ホルストのエピソードが特にそうだけど、兵士が有害な男性性を表象しているのは印象的だった。世界的に扱うべき問題なのだろう。

他の重要らしいモチーフとして『開かない扉』があった。非常に頻発していて、1話につき1度くらいのペースで『開かない扉』が出てくる。何か意図があるのかもしれないとは思ったが、閉塞感や手詰まりの強調以外の意図は、正確にはわからなかった。

また、回想シーンの挿入などは非常にわかりにくくて、映像的にもっとうまく処理できそうな気はした。とにかくクリフハンガー部分がよく出来てて先が気になるのは間違いないけれど、なかなか辛いことになってきた。

 


9/29〜10/12【37】

『セックス・エデュケーション』(シーズン3)をNetflixで観た。

いやー、相変わらず良かった。今回はこれまで以上に脚本が緻密に練られていた。

まず、問題となる要素の量が尋常じゃない。ジーンの妊娠問題とそれに伴う家庭の在り方、エリックとアダムの関係、アダムの両親の揺れ動く状況、オーティスとルビーの関係、ジャクソンとキャルの関係、エイミーの男性へのPTSD問題、メイヴとアイザックの関係、メイヴの母と妹の状況、メイヴの留学問題、オーラとリリーの関係、新校長ホープが持ち込んだ学校の刷新とその影響、そして、オーティスとメイヴの関係。これらが複雑に絡み合った結果、毎話ミリ単位で人間関係を変えながら、物語を進めていく。

流石に要素が多過ぎて、前シーズンの話とかはどうなっちゃったんだろう、という気持ちもチラつく。元カノ元カレも多過ぎて、この人は今どう思ってるんだろう、みたいな描写が無いのも少し気になった。この中では、ルビーがとても可愛く描かれていたのが意外だった。シーズン3にして、急に人間味を帯びて魅力的だった。

それでも、シーズン2までの人間関係の積み重ねを感じられた。全体的に、有害な男性性への言及が多かった気がする。オーティスとアイザックが男らしさを競ってしまうシーンとか、アダムの父がその父から植え付けられた男性性の話とか。さらに言えば、対話を見どころにする演出が増えていた。前シーズンまでならクライマックスに持ってくるであろう一般公開日の話を、最終話の一話前に持って来てるのも驚いた。生徒達を無理矢理服従させようとする校長への爽快なこの反抗に、大きな代償が伴ってしまう展開は、これまでに無い後味の悪さだった。

それでも、そろそろ次で終わった方が良さそうな気がした。単純に、キャストが高校生に見えなくなってきた。高校が終わった後の彼らの人生も見守りたいけれど。

エピソード5の修学旅行の話は、これまでのシーズンと合わせてもベストだったかもしれない。くだらな過ぎてめちゃくちゃ笑う出来事の後に挟み込んでくる、強烈なラブロマンス。

 


8/29〜9/12【36】

『ザ・チェア 〜私は学科長〜』をNetflixで観た。

30分×6話というサイズも含めて、2021年らしい作品だった(しかし、このサイズだと2時間の映画にする選択肢もあったのでは)。

キャンセルカルチャーを物語の主軸にしているが、同時に人種差別や性差別の問題をリアルに描いている。主人公は韓国系アメリカ人の50代女性で、彼女がとあるアメリカの大学の英文学科の学科長になったところから話が始まる。数年前だったら、「彼女がいろんな差別の問題に立ち向かいながら学科長になるまで」を描いたかもしれない。もっと前だったら、主人公は黒人で男性だったかもしれない。時代の進歩は目覚ましい。

キャストの中には見覚えのある人が多かった。

アメリカという舞台で韓国やメキシコの文化などに触れる時間もあって、異文化交流もサブテーマになっていた。それらも含めて、沢山の社会問題を扱う部分はどれも薄味に感じられた。登場人物が動くと、背景にある社会問題がグッと前に出てくるのだけど、それらが問題性の提起に留まっていて、どれも解決に向かわない。それはそのまま社会を映しているのかもしれないが、フィクションであることの意味の放棄にも感じられた。

メインとなるキャンセルカルチャーの問題には一応の決着があったが、やはりスッキリはさせない。この問題は、肯定できる部分と否定できる部分が分離できない状態にあって、それがそのまま作品に表出されていた。それで良いのだろうか。

それにしても、デイヴィッド・ドゥカブニーには笑った。また変な役を受けたもんだ。

 


9/9【35】

『シャン・チー テン・リングスの伝説』(デスティン・ダニエル・クレットン監督)を観た。

アクションが最高!特に序盤。カンフーアクションとアメコミ映画の折衷として素晴らしかった。ハリウッド製カンフー映画を参照しつつ発展させたようなシーンもいくつかあった。ビルの外壁に組んである不安定な足場でのアクションは『ラッシュアワー2』を思い出したが、横スクロールのゲームみたいな設定に多彩なアクロバットを足していて見応えがあった。ター・ロー村での群衆戦闘シーンでは、数人の兵士が掲げた盾の上を駆け上るシーンがあって、『レッド・クリフ』を思い出した(他にも『グリーン・ディスティニー』っぽいシーンもあったけど、そちらは未見なのではっきりとはわからなかった)。

しかし、やはり最も素晴らしかったのは、冒頭のバスの内外を自由に使ったアクションだろう。どこがCGなのかわからなかった。見たこと無いほど目まぐるしく面白く動き回るアクションに、スリルと身体性を感じた。

物語の骨子として父子関係を持ってきているのだけど、悪役の父親トニー・レオンにはステレオタイプな悪意が見られず、憂いや色気も手伝って妙に魅力的だった。

後半のター・ロー村のセットや美術と幻獣達のデザインの作り込みは流石のレベルだった。

ラストバトルのアクションがCGを多用していて、身体性が低くなってしまったのは残念だった。しかし、何にせよ、アジア人にとっての『ブラック・パンサー』を目指しているのは明白で、狙い通りにエポックメイキングな一作なのだろう。

 


8/16【34】

『プロミシング・ヤング・ウーマン』(エメラルド・フェネル監督)を観た。

観終わって、とにかく辛かった。軽々しく「面白い」とは言えなかった。観た人は老若男女みんな傷つくような気がする。全方位を突き刺しに来ていて、逃げ場が無い感じ。

古さとダサさをカッコよく見せるような、価値観が反転したオープニングには思わず笑った。タランティーノっぽさも感じた。ホットドッグを持つキャリー・マリガンのカッコ良さで、この映画の凄みが速攻でわかる。最高のはじまりだった。

全編通して、見せるべき映像が何であるかをちゃんと考え抜いていて、意図的に省いて伝える演出が物凄く上手かった。レイプを意図する残虐なシーンを敢えて見せないという判断や、全てのはじまりとなる女性の顔を見せないで語り切る魅せ方に驚いた。この映画のテーマの扱い方に合っているし、新しさを感じられた。パリス・ヒルトンブリトニー・スピアーズの楽曲の使い方には、昨今のアメリカから広がっているフェミニズム的な運動の直接的な影響を感じられた。徹頭徹尾、ホモソーシャルの醜悪さが弾劾されていた。『俺たち』はこんなに醜い行為をしていたのか。思い当たるフシもあって、居心地が悪かったが、それは仕方ない。もう『ハングオーバー』を楽しく観るのは難しいのかもしれない。ラストシーンの展開は意外ではあるけれど、こういう展開にせざるを得なかった点にジェンダー問題の深刻さを感じた。全体的なポップさの背景にある悲痛さに、ずっと打ちのめされていた。

 


8/9【33】

蜜蜂と遠雷』(石川慶監督)を観た。

あの高速かつ精密に動く指の動きを、力強く儚く美しく捉えているだけでも凄い。今までどんな映像でも観たことが無い演奏シーンだった。彼らは本当に弾いているようにしか見えないし、実際のピアニストの凄さも想像させてくれた。

主要な4人が、それぞれ魅力的かつ個性的に描かれている点が、この映画の見どころだった。松岡茉優の異様に繊細な表情と動きの演技にはずっとハラハラするし、森崎ウィンの音楽に真摯な姿は心掴まれるし、松坂桃李の観客の一番近くに寄り添うような天才では無い人の演技もグッとくる。しかし、その上で、宇多丸氏の映画評でも指摘されていたけれど、やはり鈴鹿央士が存在感で示す天才性には相当な強さがあった。物語の起点となる彼の滲み出すイノセンスから、音楽の根源的な楽しさが伝わってきた。

彼らが足を引っ張り合わないのも見ててストレスが無い。スポ根でありがちな貶し合いや駆け引きも無く、全員で至上の音楽を目指す姿が、清々しく爽やかな感動を呼ぶ。

イメージ映像っぽく挿入される水滴や馬はフィクショナルな美しさで捉えられていて、詩的な世界観を作っていた。

松岡茉優が逃げ出して戻ってくる流れは、説明を省略し過ぎてて展開の飛躍についていけなかったけど。

 


7/26【32】

『隔たる世界の2人』(トレイヴォン・フリー&マーティン・デズモンド・ロー監督)をNetflixで観た。

アカデミー短編賞を獲ってたので気になってた。

『朝、目覚めるたびに黒人の主人公が白人警官に理不尽に殺される』という構造のタイムループを、主人公はどうやって抜け出すのか、というのが主題になっている。最初からジョージ・フロイド氏の事件をモチーフにしていて、その痛ましさが現実と強烈にリンクしていたのだが、最後まで見ると、他のパターンの死も実際の事件をベースにしていたとわかって落ち込む。

はっきりと、BLMを受けて人種差別を糾弾する内容なのだが、少し腑に落ちないところもあった。『人種差別は根絶すべき』というのは誰も否定しようがない事実のはずなのだけど、物語的な展開の面白さを優先したために、ラストシーンの直前でそこがブレた気がした。『人種差別は無くならないし、理不尽にそこにあり続ける』というメッセージにさえ感じられた。おそらく『戦い続ける』がポジティブなメッセージなのだろうが…。

また、主人公は当然あり得る選択肢である正当防衛を選ばない。これは、黒人が暴力に訴えて社会から非難されたという共通認識をベースにしているかもしれない。

 


6/10〜7/15【31】

『ロキ』(シーズン1)を観た。

第1話が非常に説明的で冗長で辛くて、多分、たくさんの脱落者を産んでそう。かなりロキの内面を掘り下げる描写が多い。その中でも、彼が人を信じられるようになる瞬間には嬉しくなった。途中のアクロバティックな展開も、ロキとシルヴィの奇妙な関係の描き方も十分に面白いんだけど、最終話がまた非常に説明的で冗長で辛い。

他のMCU作品との関連が薄い点も、見なくて良い動機になるんだな、と気づいた(逆に言うと、つまんない作品でも、MCUの他作品に関係すると見なくちゃいけないということになる。それも辛い)。映像としては、美しく崩壊する惑星で逃げ惑う長回しは印象的だったが、他はそうでもなかった。シーズン2はちゃんと面白くなるんだろうか。

 


7/14【30】

『ブラック・ウィドウ』(ケイト・ショートランド監督)を観た。

アクションがヤバ過ぎた。映画館で観て良かった。スカーレット・ヨハンソンのブラック・ウィドウはトム・クルーズに寄っている。雪崩が迫る中ヘリからロープで吊られながら父を引っ張りあげるナターシャ、屋根や地下鉄のエスカレーターの間にある斜面を滑り降りるナターシャとエレーナ、躊躇なく上空数千メートルの高さから飛び降りて飛び回るナターシャ。アクションの舞台設定は『キャプテン・アメリカ』系や『アベンジャーズ』第1作に似ている部分もあるけれど、そこと差異化するように魅せるアクションの創意工夫が魅力的だった。そして、同時に、アクションがハードかつリアル志向になっている点にも驚いた。骨のぶつかる音が聞こえるようなサウンドにも迫力があった。ディズニーだしな、と油断していたが、息子はナターシャとエレーナのリアルな戦闘シーンでは、耳を塞いでスクリーンを直視しないようにしていた。

そもそも、思い返せばあのオープニングの絶望感も凄かった。

レッドガーディアンは下ネタっぽいやり取りもしていた。かなり大人向けに調整したのだろう。

そして、エレーナはブラック・ウィドウを継ぐのだろうか。フローレンス・ピューの筋肉質な強さと感情的な性格には、スカーレット・ヨハンソンとは違った魅力がありそうだった。