2022年後半に観た映画類の記録

映画もドラマも全然観ていない年だった。

もうこれがベースになっていくのかもしれない。嫌だ。

 

12/25【38】

12/18【37】

『THE FIRST SLAM DUNK』(井上雄彦監督)を2回観た。

1回目は冒頭5分くらい見逃してしまった。絶対もう一回観直さねば、ということで2回観た。

3DCGの使い方が衝撃的だった。キャラクターを3DCGで描いているアニメで、ここまで自然なスピード感がある作品は観たことが無かった。映像のテンポの緩急のつけ方も上手くて、バスケというスポーツの面白さをわかりやすく表現していた。音楽の付け方も重要で、音へのこだわりも感じた。

2回も観るとアニメーションのディテールの凄まじさにも気がつく。自然に流れる汗、均一な線ではなく手書きっぽい太さの強弱を残した輪郭線、メインじゃないシーンでも細かいプレイをするキャラクター(桜木がPGの後ろから忍び寄ってボールを奪う試みをしたりする)。 原作ファンを納得させるように原作通りのエピソードや展開はたくさん入れるけれど、漫画未読の初見でも楽しめるように盛り込み過ぎないバランスにしているのがとても上手い。メイキング本の『リソース』に書いてあったように、宮城を主役にして傷や痛みを乗り越えるストーリーにするという大胆な脚本の調整も、普遍性の獲得には非常に有効だった。

しかし、桜木花道というキャラクターが、どう考えても主役級の設定を盛り込みまくっていることは無視しづらい気もするし、三井が更生した理由がよくわからなくなっていた。ストーリーに細かく齟齬は起きていた。

それにしても、『スラムダンク』は冷静に観ていられる作品ではない。スラムダンクを読んで小学校の中学年からバスケを始めて、中3で挫折して辞めた俺は、明確にこの漫画に俺の人生を変えられたからだ。それだけに、この圧倒的なバスケットボールの表現を見て、自分がやっていたバスケットボールがちゃんと彼らと同じスポーツだったんだ、と繋がっている実感があり、そこに静かな感動があった。

観終わってから、じわじわとこのタイトルの『ファースト』の重みを感じた。誰も見たことがないスラムダンクだったし、山王戦は初めての映像化だったし、また多くの人にとって初めてのスラムダンクになるはずだ。世界にとっての『ファースト』にもなり得る、とドキドキした。

 


11/22【36】

『ブラック・パンサー ワカンダ・フォーエバー』(ライアン・クーグラー監督)を観た。

2度泣いた。

1度目は、ティ・チャラ役のチャドウィック・ポーズマンの不在を強烈に実感したためだった。彼の映像を挿入するタイミングが絶妙で、その映像自体もエモーショナルで編集が上手かった。映画が現実とリンクする演出になっており、必然的に作品内のキャラクターと同じような気持ちで観た。

2度目は、シュリが復讐ではなく平和を求める気持ちに目覚め、真のヒーローになった瞬間だった。この決断の裏にもティ・チャラの記憶が影響していて、感動的だった。同時に、シュリとシュリ役のレティーシャ・ライトが担った重責についても思わずにはいられなかった。

そして、当然のようにアガるアクションシーンもちゃんとあって、特に前作を踏襲したカーチェイスは、今回もテンポの速いヒップホップに合わせていてノリノリで楽しめた。

リリのアイアンハート初披露にもアガった。

ネイモアのビジュアルと独特の戦闘シーンも斬新だった。

水中のシーンが多くて、「これはどうやって撮影したのだろう…?」と首を捻ることが多かった。莫大なお金をかけて、巨大セットを作る?CGで何を補ったのだろう?メイキングが気になる。

また、ネイモアが統治するタロカンという国をとても平和で楽しげに描いたことに驚いた。戦争は大抵が国対国であり、そこに正義と悪という価値観での対立は無い。そのリアルな描写が国際問題の難しさを露わにしていて、マーベルらしい表現だった。

 

10/1【35】

『ドロステのはてで僕ら』(山口淳太監督)を観た。

いかにも低予算の自主映画という感じだ、舞台演劇っぽい作りなのだけど、脚本のアイディアの独自性と、複雑になっていく展開をやり切った労力に不思議な感動を覚えた。メイキングっぽいエンドロールを観ると、その思いは増す。何度も精密に同じ演技をしたに違いないし、何重にも映像を重ねて作るのも大変だったろうな。地味なワンアイディアをここまで躍動させた脚本も凄い。

 


9/19【34】

『フリー・ガイ』(ショーン・レヴィ監督)を観た。

オープンワールドの犯罪シミュレーションオンラインゲームである『フリー・シティ』で、自我に目覚めたNPCモブキャラ(非プレイヤー)のガイがそのゲーム世界に起こす革命的な事象を描いた映画。

まず、ガイ視点で始まり、ゲーム世界を描いていることを言わずに進める構成がうまい。いかに『グランド・セフト・オート』的な世界が異常であるかという批評性を感じた。この『フリー・シティ』という世界と現実世界があると言う設定からは、『マトリックス』と『トゥルーマン・ショー』を連想した。目覚める人物として、ガイはネオでありトゥルーマンだった。ライアン・レイノルズが嘘っぽい笑顔を貼り付けているのも、いかにもNPCキャラっぽくて良かった。

物語の強引さをタイカ・ワイティティのキレキレバカ演技が覆い隠していた。アドリブも多かったのではないだろうか。

20世紀フォックスがディズニー傘下になったからマーベル作品もパロディにしやすかったのだろうか。いろんな作品から引用するシーン自体は『レディ・プレイヤー1』を彷彿とさせた。

 


9/14【33】

『ミラベルと魔法だらけの家』(バイロン・ハワード&ジャレド・ブッシュ監督)をディズニー+で観た。

想像していたより、ずっと歌って踊ってた。主要キャラの殆どが歌って踊るとは思わなかった。『アナと雪の女王』シリーズにあった歌と魔法で感情を表現する手法が多用されていて、より多彩な感情をテンポ良く魅せてくれた。

歌の種類がとにかく多くて、今までミュージカルでこういう種類の曲あったのかな、と驚くことが多かった。全体の物語構造も『アナと雪の女王2』に似てる部分があって、絶対的な悪は設定せず(回想シーンには配置している。ある人物を悪役に見せるミスリードを、従来のディズニー映画のパロディのように機能させているのも良かった)、ある人物の葛藤や悩みの解決が問題の解決に繋がる。

しかし、今作は主人公だけではなく、家族がそれぞれ持つ悩みの解決が、家の崩壊という問題の解決に繋がるようにアップデートしていて、2022年の映画だと感じた。冒頭から魔法が使えない主人公が悩んでいることが提示されて、従来のディズニー映画っぽく進むなら彼女の単純な成長譚や冒険譚になるのだが、魔法を使える家族達もそれぞれ内面に問題を抱えていることがわかり、主人公がその問題を解決していく方向にシフトしていく展開に新しさを感じた。

主人公が冒険者ではなく調整者やカウンセラーのような役割を担っている。というあらすじを抜き出すと、殆ど家庭内の話で地味な内容になりそうだが、そこを歌と踊りと魔法がド派手に彩っていて飽きさせない。キャラクターの表情も繊細かつ微妙な表現をしていて、その要因には、演出だけではなく技術の革新もありそうだった。


7/14〜8/13【32】

『ミズ・マーベル』(シーズン1)をディズニー+で観た。

思いっきりティーンムービー。一番主題となるのはアイデンティティの揺らぎで、そのテーマの扱い方には誰にでも伝わるような普遍性を感じた。主人公のカマラは、パキスタンからの移民2世のアメリカ人であることと、イスラム教徒であることなどの人種的・宗教的アイデンティティについて、少し悩みがちな10代女性だ。その悩みは、過保護で過干渉気味の母の影響によって、より強くなっている。

そこに、実は自分の血縁的ルーツに秘密があることがわかり、彼女のアイデンティティはヒーローや超人という要素の間でも揺らぐようになる。この辺りまでは『私ときどきレッサーパンダ』によく似ている。その戸惑いに真正面から向かい合って成長していく姿は、瑞々しくて眩し過ぎた。

空中に飛石を作ってビルの間を跳び回る姿は、スパイダーマンのスイング以来の新しさで、ティーンらしい元気さが現れていて良かった。

無理なくパキスタンイスラム教の文化をストーリーに組み込んで、教育的要素を満たすのはさすがディズニー傘下のマーベル。

 


2021/11/7〜2022/7/30【31】

イカゲーム』(シーズン1)をNetflixで観た。

何となく観るのに時間がかかってしまった。第一話を観て、全部わかったような気になってしまったからだろう。せっかくだから全部観てみよう、と試聴再開してみたが、全世界的にヒットする理由はよくわからなかった。先が気になるようにできているので、その点が多くの視聴者を引っ張ったのかもしれない。しかし、既視感のある展開を繋いで出来ているので、そこに新しさは感じなかった。

一つ一つどうしてその展開になるのか、という理由がいつも弱い感じがした。各キャラに多くの選択があったのだけど、どの選択もあり得るという状態が続いた。観終わってみると、全体のストーリーのためにキャラクターが行動してしまっている感じが残った。

また、暴力描写や残酷描写も徹底していたし、ストレートな性描写もあって、韓国映画に近い過激さだったのだけど、この点は世界でどう受け止められたのだろう、という疑問は湧いた。

韓国の社会情勢を散りばめている点も『パラサイト』などに似ていた。ゲームの中で一番面白いのはおそらく強化ガラス当てゲームなのだが、この回の演出が凝っていた。各キャラクターの特徴をうまく見せるシーンが多かったし、スローモーションでガラスが飛び散る映像にハイテンポで扇状的な音楽が合わせられていて、MVっぽいシーンがあった。

全体的なビジュアルへのこだわりは良くて、派手な色を使いながらシリアスなトーンの作品にしているのが、奇妙なバランスで印象的だった。

 


7/27【30】

アウトロー』(スティーブン・マッカリー監督)を久々に観た。

ジャック・リーチャーは本当に人の話を聞かない。そう気づくと、コメディのようだった。彼は人の話を遮ってどこかに行ってしまったり、一方的に電話を切ったりする。その唐突さにめちゃくちゃ笑ってしまう。

ストーリーは相変わらずよくできたミステリーをベースにしていて、ずっと先が気になる緊張感を保っている。ジャック・リーチャーは探偵でもある。類稀な記憶力・格闘術・瞬時の判断力を武器に、敵をバタバタと薙ぎ倒しながら事件解決に向かう。

そして、やはりこの映画は唐突さが面白い。ロバート・デュバルの演じる射撃場の店主の爺さんが急に仲間になるところや、なぜか銃を捨てて敵と殴り合うシーンは滑稽でもあるのだけど、その爆発的な唐突さで何度見ても笑ってしまう。

一番好きなのはお風呂場の格闘シーン。敵が入り口でつっかえて仲間割れする展開は、馬鹿過ぎる上に蛇足過ぎて最高!

 


7/13【29】

リコリス・ピザ』(ポール・トーマス・アンダーソン監督)を観た。

話の筋だけを追うと変な映画なのだけど、スクリーンでずっと何かが起こりそう、あるいは、起こっている感じがして、目が離せなかった。物語の展開には予想外の飛躍があって、そのわからなさにも観続けなければいけない緊張感があった。

パンフレットを読んで、あの展開の飛躍は、本当に実際に起きたことが散りばめられてるからかもしれない、と感じた。映画の中では不可解でも、現実が起こした出来事ゆえに、その不条理さに強度があって説得力があったのだろう。

その舞台設定と虚実入り混じった内容から、時折、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を思い出しながら観たのだけど、根本的には違う。タランティーノは最後に大きな嘘をついて現実に抗う方法を取ったけど、PTAは現実と映画が絡み合って渾然一体となるものを目指していた。どちらも面白い。

一番意味不明で一番凄かったのは、バック走法で坂を降りるシーンだった。

バイクの疾走シーンからの主人公の駆け寄りシーンも不可解でヤバかった。

とにかく主演の二人が走るシーンが多くて、やっぱり青春は走るよな、と納得した。

 


6/5〜7/10【28】

『ザ・ボーイズ』(シーズン3)を観た。

ゴア描写がこれまでのシーズンを超えたレベルに更新されていた。内臓見せ過ぎ!しかし、それがメインの内容でもなく、これまで同様、社会的イシューを取り込んだ上で、ドラマとして楽しめる作りになっている。

ホームランダーは、よりトランプに接近していた。

24時間の時限性Vも、ソルジャー・ボーイも、核兵器やそれに近い戦略兵器のメタファーとなっていて、「力には力で対抗するしかないのか」という問いを提起することで、『力に対峙するために、人間には知恵や知性がある』というザ・ボーイズ本来のコンセプトを改めて確認させるシーズンとなっていた。