2021年前半に読んだ本の記録

長らく積んであった分もまとめて、ようやく『三体』を読んだ。『三体Ⅱ 黒暗森林』を読んでいて、自分が常日頃から『ハンター×ハンター』を渇望していることに気づいた。それに気づいた時、『いつでも捜しているよ どっかに君の姿を』という山崎まさよしの歌が脳裏に浮かんだ。『呪術廻戦』の中にも『ハンター×ハンター』の姿を捜しているのかも、という疑念も浮かんだ。いつでも良いから続きが読めれば嬉しい。あの漫画描くの大変なのはわかるので。あ、『ヒストリエ』もね!

引き続き、フェミニズムに興味はあって、シスターフッド的な物語にも惹かれる。そして、ホモソーシャル的なものが害悪に思えてしまう。コロナ禍でそういう飲み会が無くなったから余計かもしれない。飲み会が復活したら辛いかも。

以下、遡る形で読んだ本の感想を記録する。

ネタバレはしているだろう。


6/25

『さいごのゆうれい』(作:斎藤倫/画:西村ツチカ)を読み始めた。


6/7〜6/29【12】

『家族って』(しまおまほ)、読了。

またも、しっかりと、しまおまほ節。おかしな出来事がさらっと書かれたり、覚えていられないような日常の些細な出来事が執拗に言語化されたりする。感情を入れずに事実を書いているだけの文章も、その出来事の間に飛躍があったりすると、そこに文学っぽさ(って何だ?)を感じたりする。不思議だ。著者がインタビューでも答えていたが、感情の説明を入れずに感情を描写しているようなところがあって、それも文学っぽさに繋がっているのだろうか。

また、出来事の取捨選択と繋ぎ方に感情が込められるということにも気づけた。映画の編集に似ているかもしれない。

著者の家族との話をベースにして語られているが、父方の祖父・島尾敏雄と祖母・島尾ミホの小説家2人に関わる話はやはり異質な感じがした。先入観もあるのだろうが。特に、島尾ミホから漏れ出る、夫への狂気的な執着にはちょっとドキドキした。

奄美加計呂麻島に関わる文章からは、何だか超現実的な空気が漂っていて、異質だった。

 

6/6

『NEXT GENERATION GOVERNMENT 次世代ガバメント 小さくて大きい政府の作り方』を読み始めた。


5/27〜6/6【11】

夢で逢えたら』(吉川トリコ)、読了。

『女芸人』と『女子アナ』に分類されてしまう女性2人が、緩やかに連帯しながらテレビの世界と向き合うシスターフッド小説。って、なんか、この説明でいいんだろうか。もっとはっきり言い切った方がわかりやすくて楽しみやすいんだろうけど、そういう風には描かれてない。

主人公2人の男性優位社会に対する意識や、それを容認している世間との接し方は揺れ動いていて、いわゆる『正しさ』だけで割り切れない部分にもがいている。女性蔑視はクソだけど、それがはびこっているテレビ業界で生き抜くにはどうすれば良いのか。その混乱や試行錯誤をそのまま小説にしているような感じ。終盤に一応のカタルシスはあるんだけど、そこまでたどり着くのが結構しんどかった。

特に、侑里香というアナウンサーの方のキャラクターが理解しづらくて混乱した。過剰に家父長制に乗っかった夢を抱きながら、男性の女性差別的な言動に対して苛烈にフェミニズム的反論をする、という多面性に混乱した。芸人である真亜子にも多少この傾向はあるので、そんな矛盾を孕んだまま生きているのが現代女性のリアル、と考えるのが良いのかもしれない。侑里香の同期アナ・佐原しずえが世論に適応しようとする描写もリアルだった。形はどうあれ、ホモソーシャルを打ち砕く動きになり得る、と感じた。

そして、作者は本当にテレビが好きに違いない。膨大な量のテレビネタを投入していて、単純にその量に驚いた。また、名古屋をこんなにフィーチャーしてることにも驚いた。こんなに生き生きとした尾張弁が活字になっているのを初めて読んだ。話し言葉に凄く熱が篭っている気がした。

読み終わっても、侑里香と母の問題は継続中だし、彼女達の今後の生活は不安だし、真亜子と渋谷の関係も手付かずのままで終わっていて、何だかスッキリしない。続編を考えているのかもしれないが、彼らは今も継続して戦っている、と納得するのが良いのかもしれない。


5/20〜5/26【10】

『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』(ヤマザキOKコンピュータ)、読了。

お金のことを考えずに生きたい、と昔から思ってしまっている。強迫観念のようなこの思考の出どころはわからないが、かなり根深い。

でも、最近同じように関心が薄かった政治には少し興味が出てきた。子どもも出来て、もう少し社会が良いものになるべきでは、と思い始めたからだろう。政治と経済は繋がっているらしい、と昔『愛と幻想のファシズム』を読んで気づいたんだった。それを思い出したりして、自分と経済の関係に少し興味が湧いたので読んでみた。

本格的な資産運用にはまだ興味が湧かないけど、この本に書いてあるような社会を良くするための投資という考え方には強く惹かれた。ESG投資という考え方だ。聞いたことはあったが、読んではっきりと意識できた。この考え方を軸にして、初めて株を買う意味が見出せた。

また、銀行に預けたお金がクラスター爆弾を作る会社の投資に使われていたという例が衝撃的だった。自分のお金は微々たるものだけど、そんな風に繋がってしまうのは本意じゃなかった。読み終わっても、銀行にそのまま預けておくのは微妙だな、という気持ちが消えなかった。

まだまだいろんな躊躇いや戸惑いもあって、「社会にとって良い」とは何か、という疑問はあるし、この考え方を利用される不安も感じるし、自分のアクションの社会への影響の少なさも感じるし、「株を買えるのは困窮していないからだ」という微妙な気持ちもある。それでも、少しでも世界が悪くなるのを防ぎたい、という気持ちで、生まれて初めて少しだけ株を買ってみた。


4/15〜5/19【9】

『三体Ⅱ 黒暗森林』(作:劉慈欣/訳:大森望、立原透耶、上原かおり、泊 功)、読了。

引き続き、凄まじい大傑作!これを1人で考えられるものなのか?この著者はどこまでシミュレーションできるんだ?とまた唸った。人間の想像力の可能性を思い知らされた。

まず、前作から続く『智子』の設定が効いている。

①智子は地球上のあらゆる場所に遍在可能。

②智子は物理の基礎研究を妨害し続けることによって、科学技術の発展を妨害する。

③智子は地球における万事の情報を得ることができる。

④智子が唯一、読み取り不可能なのが、人間の心理状態や思考。

次に重要な設定は地球人と三体星人のコンタクトについてで、

⑤三体星人が地球に到達するのは400年以上先になる。

上記のルールに則った上で本作は進む。地球人は三体星人の侵略にどう対抗するのか。

この⑤が最も斬新だと感じた。「人間の寿命を超える長大な時間を、どのように使って対策を考えるのか」という難問自体も面白いけれど、その対策や経緯がいろんな角度からシミュレートされていくのが面白い。

そして、三体星人に挑む『面壁者』という設定が最高。これは、智子の唯一の弱点である④を突く方法で、こんな設定を考えられるのが凄い。面壁者の物語が進むに連れて、『ハンター×ハンター』を読んでるような感覚を思い出した。とにかく多くの要素が入り乱れる中での頭脳戦と心理戦がその連想の原因だろう。その要素一つ一つが本当に斬新で、思いもよらないアイディアで出来ているという点もヤバイ。

中国で2008年に書かれた小説のせいか、女性観や家族観の描き方は若干微妙な気もするし(具体的に指摘しづらいくらい薄らと感じる程度だけど。例えば、面壁者が男性だけである点など。イメージする人物がいたのだろうし、当時の社会を映していると言えば、その通りなのだろう)、日本についてのおかしな描写には首を傾げてしまうけど、それらを覆い尽くすような膨大で面白いアイディアの渦に翻弄されているうちに読み終わった。

『黒暗森林』のタイトルの意味が終盤で説明される時なんて、そのシミュレートの深さに感動した。早くドラマで観たい。こんな凄いの映像化できるの…という疑問を感じ続けながら楽しみにしている。


4/2〜4/16【8】

『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』(作:斎藤倫/画:高野文子)、読了。

いろんな人の絶賛もあったし、表紙の高野文子の絵も良かったので、買ってあった。買った当時は想定してなかったけど、成り行きで子どもに毎日0.5~1章ずつ読み聞かせた。

子供が詩というものに初めて接する機会として、とても良い本だった。自分自身も、詩というものに苦手意識があるので、一緒に読みながら少しずつ詩の楽しさを知るような心地がした。

年齢的におじさんである「ぼく」と小学生の「きみ」が、詩について話す形式で話は進む。各章では2篇の詩が引用されている。詩を読み聞かせするうちに、この言葉の唐突さは多くの絵本に似ていると気づいた。息子も気づいて、「『の』(junaida氏の絵本)みたいだね」と指摘していた。絵本は詩に触れるための準備をするものかもしれないし、絵本と詩は兄弟みたいなものなのかもしれない。


4/1〜4/15【7】

『夢の猫本屋ができるまで Cat’s Meow Books』(井上理津子/協力 安村正也)、読了。

本屋Titleの『本屋、はじめました』が良かったので、好きな本屋の開業話をもう一冊読んでみた。『猫×本屋』をコンセプトにしている Cat’s Meow Booksの話。基本的には猫関連の本しか置いていない書店で、数匹の猫が居心地良さそうにしている中で、ビールやコーヒーが飲めたりするお店。

まず、店主がパラレルキャリア(いわゆる副業)だとは知らなかった。そんなワークスタイルを全く考えたことが無いし、今後も無さそうだけど、一つの考え方をもらった気分になった。

それと、自分の場合の〇〇×本屋のコンセプトも何度かシミュレーションしてしまった。ちょっと考えるだけでも相当難しくて、安村氏を尊敬してしまう。

一番面白く感じたのは、保護猫コミュニティで色々と繋がっていく点だった。人生や生活の中心に猫がある人がこんなにいるのか。猫の殺処分の問題を考えている人がこんなにいるとは知らず、少し反省した。

この本は、店主じゃなくてライターの方が取材して作っていて、その少し俯瞰した視点からの文章には、ノンフィクションらしい真実味を感じた。それを裏付けするような取材対象と参考資料の多さにも感心した。


3/29〜3/30【6】

『ババヤガの夜』(王谷晶)、読了。

映像を想起するタイプの強烈な描写が多くて、一気に読めた。映像化したら誰がやるかな、コミカライズするなら誰が描くかな、というメディア展開の可能性を期待しつつ読み終えた。

主人公の依子が筋肉質で喧嘩好きの強い女性であるという斬新な設定が1番の魅力で、その強さがグイグイ物語を引っ張っていく。それに呼応するように配置されたケレン味たっぷりのヤクザ達も良い。その男性達を圧倒する姿にフェミニズム的な文脈は自然と見えるけど、その姿は純粋にかっこいい。また、もう一人の主人公と言える尚子との関係性の描き方も、安易に恋愛や友情に堕とさない点が、シスターフッド的な表現として真摯な態度を感じられて凄く良かった。

終盤で展開をひっくり返す大仕掛けにはちょっと驚いた。そこまでのミスリードを含めて、物語の背景となる情報のコントロールが巧みだった。

ジェンダーバイアスの呪いを解く意志が込められた痛快エンターテインメント作品だった。


3/19〜3/28【5】

『なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむアカデミー賞』(メラニー)、読了。

ラジオで喋っていた内容がわかりやすくコンパクトにまとまっていた。『アカデミー賞の各部門の受賞には明確に傾向があり、それを予想するためのメソッドを紹介していく』というのはタマフル(その後アトロク)で語っていた内容の通りで、それに付随して、過去の受賞作や色々なスピーチを細かく振り返っているページが充実してて面白い。資料としてもとても優秀で、こうやって残さなければ消えていく内容だと思う。

2021年は、パラサイトが韓国語映画で作品賞を獲った後だし、大統領がトランプからバイデンに変わったし、映画界がコロナ禍の煽りを受けている最中なので、当時ともだいぶ事情は変わってしまった。今後、アカデミー賞がどうなっていくのかは、めちゃくちゃ気になる。

そして、受賞の予想をしてみたくなってるし、アカデミー賞の受賞式を見てみたくなっている。


2/21〜3/17【4】

『最初の悪い男』(作:ミランダ・ジュライ/訳:岸本佐知子)、読了。

あらすじからこぼれ落ちてしまう面白さに溢れていた。一つ一つの出来事は思い出せるけど、なぜそうなったのかが思い出せないし、説明できない。主人公の妄想が現実を侵食し過ぎていて、かなり信用できない語り手なのだが、それが展開を激しくスイングする。その事故のような唐突さに、爆発的に感情を揺さぶられる瞬間もあった。

妄想癖のせいか、主人公は思い込みが激しくて、展開を予見して読者を誘導する。でも、実際の出来事は違った、という流れが何回もあった。こんな予想の裏切り方があったのか。シェリルとクリーの関係性の激し過ぎる変化は読み取りづらいけど、一番の読みどころだろう。その部分については、役者あとがきがガイドラインとして素晴らしい役割を果たしていた。ラストの意外な爽快さも読後感が良かった。


2/12〜2/19【3】

『さよなら、俺たち』(清田隆之)、読了。

読んでて辛くなる本だった。思い当たるフシがあり過ぎた。とにかく細かく言語化しているのが面白くて夢中で読んだ。冷静に読めていないので読み返した方が良さそう。今は多少気をつけられるようになっているけど、自分はきっとまだまだ危うい。

著者が有害な男性性について書いているエッセーが多くて、彼自身の反省が込められている文もある。そこに織り交ぜる著者の経験や個人的な情報開示の度合いが凄い。説得力を高めるために書いていると思うのだけど、相当な覚悟を感じた。

周囲の人間やTwitterや自分自身を見ていても、やはり生まれた時からホモソーシャル的価値観に親しみ過ぎてしまった男性は、なかなか変わりづらいのかもしれない。いろんなきっかけは考えられるけど、男性は同性からの呼びかけの方が気づきやすいのかもしれなくて、そういう意味でこの本は非常に有効だと感じた。自分の男性としての加害性を意識し過ぎてしまう話は初めて読んだのだけど、言語化されて初めて、自分にも当てはまることがわかった。と同時に、これは「あるある」だったのか、と少し安心できた。

映画『モテキ』をはじめとする大根仁作品を、『男性の幼稚さ』の表現について論じていたのも新鮮で、当時楽しんでしまった自分とどうやって折り合いをつければ良いかわからなかった自分にとって、大いにヒントとなる文章だった。

繰り返し出てくる、『人のdoingではなくbeingを見る』という考え方は、ジェンダー・イクオリティーの実現を目指すために重要な要素として受け取った。

さよなら、俺たち

さよなら、俺たち

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1/11〜2/12【2】

『三体』(作:劉慈欣/訳:大森望、光吉さくら、ワン・チャイ/監修:立原透耶)、読了。

圧倒的傑作だった。読み終わる前に続編を買いに行った。

本格的に理数系っぽい聞き慣れない言葉が飛び交い、異様に複雑な設定も出てくるのだけれど、それでも読みにくいわけではない。リーダビリティは超高いし(訳者の功績は大きいのだろう)、めちゃくちゃ先が気になるのに、読むのに時間がかかる、というもどかしい読書体験となった。

「一人の頭で考えられる本なのか、これは」とずっと思っていた。理数系の情報を中心にたくさん取材をしたのは当然だろうが、それらを知識として使いこなした上で、この設定とストーリーを思いつけるのか?

まず、アイディアがもの凄い。現実をうまく反映させたギミックに、静かに混ぜるSF要素が巧みだ。ストーリーと設定のアイディアが充実してることは他の作品でもあるが、その異常な充実に加えて、ビジュアル的なアイディアにもとてつもないインパクトがあった。個人に降りかかる災難のミクロな表現の緻密さにも驚いたが、とある作戦の恐ろしいアイディアには息を飲んだ。残酷さと美しさを兼ね備えた映像が脳内で立ち上がり、居座り続けている。

Netflixでドラマ化するというが、その映像化には大きな期待を寄せたくなる。そして、かなり中国固有の設定が活かされているのだけど、舞台は中国中心になるのだろうか?何にせよ、そちらも楽しみだ。


2020/12/22〜2021/1/10【1】

『ヨシキ×ホークのファッキン・ムービートーク!』(高橋ヨシキ・てらさわホーク)、読了。

映画が映し出す現実を省みて、二人で自由に語り合う対談形式の本。口調こそ砕けていて皮肉も多いが、前評判通り概ねシリアスな内容だった。どの問題についても、彼らの話には頷けることが多かった。

ディズニーによるアニメ過去作の実写化は必要か、という話題の流れで、「『ジャングル・クルーズ』にドゥエイン・ジョンソンが出るので、アトラクションにも設置されるかも」からの「じゃあ、いいか(笑)」には笑った。俺もアトラクションでロック様は見たい。

今読んでおいてよかった。コロナウィルスの感染拡大や、トランプ退任や、映画興行の衰退は、2021年以降の映画にどんな影響を及ぼすのだろう。また話してほしい。