NIKKI(魔法が解ける2021年10月)

【2021.10.3 日曜日】

緊急事態宣言が解除された、というのを強く意識していたわけでもないけど、閉まっていた居酒屋が開いているのが目に入ったので、そこで晩御飯を食べた。その店はとてもチェーン店っぽいけど、他に見たことがあるわけでもない、という微妙な雰囲気で、一度だけランチに入ったことがあった。なかなか繁盛していて入口に近い席は満席だったので、奥に通された。奥では、男子大学生らしき集団が楽しそうに飲んでいた。

久々に生ビールを飲んだ。美味しかったけど、家で飲む缶ビールとの明確な違いはわからなかった。魔法が解けてしまっているような感覚があった。

隣の席を見ると、物心ついて初めて居酒屋に来たらしい息子が、その非日常的な雰囲気に興奮していた。

しばらく経って、店内に聴いたことのある曲がかかった。フジファブリックの『若者のすべて』。あちゃー。大学生の頃から好きな曲。カラオケ行きてー。とか苦笑してたら、今度はアジアンカンフージェネレーションの古い曲が2曲連続でかかった。ああ、これ、選曲してる人、同世代かな…。

男子大学生達や音楽の影響で大学生の頃の気持ちを思い出したけど、隣に自分の子どもがいて混乱した。

情緒がぐちゃぐちゃのまま、テーブルでお会計したら6000円くらいだった。真っ先に「あれ?高いな」と思ったが、よく考えりゃ大人2人+子ども1人で6000円くらいなら別に高くない。ああ、居酒屋が久しぶり過ぎて、「居酒屋高い」と思ってた大学生の頃の感覚も思い出したらしい。

いや、でも、冷静になっちゃうと高い。最近は3人分のテイクアウトで2500円以内くらいだったし。

f:id:houruwholehole:20211026224447j:image

【2021.10.4 月曜日】

息子が『鬼滅の刃』にハマっている。テレビで放送された無限列車篇を観て、まんまとハマった。

仕事が終わって、風呂に入ろうと服を脱いでいる最中に、ねえ、と息子に話しかけられた。よくわからないまま返事をすると、

「どうまってわかいじょせいのにくしかたべないってほんと?」

と聞かれた。あまりに唐突な言葉の列挙で最初は意味が取れなかったけど、しばらくして

「童磨って若い女性の中しか食べないってホント?」

だったと気づいて笑った。

保育園に鬼滅の刃に詳しい子がいて、教えてくれたらしい。そうだな、童磨っていう鬼は若い女性の肉ばっかり食べてるクソ野郎だ。

 

【2021.10.5 火曜日】

息子に影響されて、改めて『鬼滅の刃』を読み漁った。あ、これ、こう繋がってんのか…という発見がたくさんあった。リアルタイムでジャンプで読んだ時は、だいぶ読み流してしまっていた。コミックスに収録されている作者の補足も異様にたっぷりあった。

なるほど、どうしてみんながあんなに熱狂するのか、が少しわかった。こんなに設定が作ってあるのか、と腑に落ちた。多くの登場人物について、こちらの感情移入が始まる前に死ぬ印象だったのだけど、熱心な読者はこういうところから気持ちを入れていくのね。

 

【2021.10.11 月曜日】

息子はまだ『鬼滅の刃』にハマっている。

漫画を隅から隅まで眺めている息子は、鬼滅の刃カルトクイズみたいな問題も出すようになった。この日は柱(強い剣士)の持つ刀のツバの形を問題として出された。難問過ぎる。

「じゃあ、恋柱の刀のツバの形は?」と訊かれた。当然知らない。いい加減に「あぁー(そもそもツバあるのか?あのクネクネした刀…。とりあえず、答えないと。じゃあ、恋だから)ハート」と答えたら「正解!」と言われて、「嘘だろ!?」と大きな声を出してしまった。

調べたら本当だった。よく見てるもんだ。

f:id:houruwholehole:20211026224329j:image

【2021.10.14 木曜日】

まあ、日記に書くほど何かが起きる日々じゃないんだよなァ〜、このコロナ禍っていうのはよォ〜、と日記を書きながら言い訳したくなる。

そんな中で、雑談の価値が上がってる。

久々に会社に行って雑談があった日は、ちょっとスッキリする。

もちろん、会社に行かない日の妻や子供との雑談も十分楽しい。彼らとしか話さない日もあるけど、問題無い。雑談を楽しめる人たちと暮らせて幸運だよ。

雑談はしたいけど、聞くだけでも良いみたい。だからポッドキャストをたくさん聴いてるのかもしれない。

もっといろんな人の雑談をアーカイブするポッドキャストがあってもいいかもねー、って最近よく思う。自分で作ろうかな、とも思うけど、ためらっている。誰かがいないと雑談にならないけど、誰かとやると一人で好きなようにやれないかも、とか考えるうちに、面倒くさくなる。

それでも、『東京の生活史』(岸政彦 編)を読んでいると、ポッドキャストでこれがやりたかったのでは、という気もしてくる。この本は、誰かが誰かの人生の話を聞いて書き残すもので、ほとんどの内容が社会的に見ると後世に残らなそうな些細な内容になっている。この本が作られなければ消えて無くなりそうな話ばかりで、グッと来る。制作を追ったテレビのドキュメンタリー番組も良かった。小泉今日子の朗読も含めて、生の声にも迫力があって、あれは音声だけでも成立しそうだった。誰かが人生を語らなくてもいいけど、どこかの誰かの雑談が保存されていたら、それだけで価値がある気がする。

まあ、この雑談の価値高騰は今だけかもしれないけど。

 

【2021.10.27 水曜日】

会社に向かう電車の中で、急に諭吉佳作/menの良さに気づいた。

聴いていたポッドキャストで名前が挙がったので、何となく久々に聴いてみて急に気づいた。

今までは忙しなく鳴る音をうるさく感じていた。そこに長谷川白紙っぽさやボカロっぽさを感じていて、自分のためにある曲じゃないと決めつけていたのだけど、突然その音に多彩さを感じて美しさを発見した。

決定的だったのが、『ムーヴ』という曲の途中で唐突に入ってくるトロピカルな高音だった。このテンポの楽曲にそんな音入るのか。その新しさに気分が高揚した。よく聴くと、綺麗な歌声が聴いたことないような譜割で歌っているのも面白い。あ、そこ伸ばすんだ、みたいな。ヘッドホンを意識した作りの音にも初めて気づいた。音がぐいーっと右に左に動いた。これが曲名の由来かな。今までスピーカーで聴いていたから気づかなかったのか。楽しい。

ひょっとしたら、以前より精神状態が良くなったのかも。それで、やっと受け取る準備ができたのかな。今なら長谷川白紙も聴けるのかも。

電車を降りて駅を出ると、雨が降っていた。走る車のタイヤが、濡れて光る道路に逆さまに反射した。そんな光景を美しく感じたのは初めてだった。音楽の影響の可能性もあるけど、やはりとにかく精神状態が良いのだろう。

 

会社から帰る電車でも『ムーヴ』を聴いてみたら、遠くで美しく鳴るピアノの音が聴き取れた。マリンバか木琴みたいな音も聞こえた。

しかし、既に、それらがあの時聞こえたトロピカルな高音だったのかがわからない。早くも何かが失われた感覚があった。

 

【2021.10.28 木曜日】

前から読みたかった手塚治虫の『陽だまりの樹』をようやく読み始めた。傑作じゃん。『ブラック・ジャック』や『きりひと讃歌』などの系譜にある、手塚治虫が得意な医者漫画に、幕末を舞台にした歴史漫画の要素を複雑に絡めてくる。そこで繰り広げられる人間ドラマが大変にシリアスで、かなり大人向けになっている。まだ途中までしか読んでいないが、この心理描写の巧みさや盛り上がる演出の巧さが手塚治虫だったな、と再確認している最中だ。

自分自身を省みて、幕末への興味が増しているのは、大河ドラマ『青天を衝け』とか『風雲児たち』(みなもと太郎)とか『大奥』(よしながふみ)を楽しんでいるからだろう。

歳を重ねると歴史に興味が湧くようになる、という典型かもしれないけど。

 

【2021.10.29 金曜日】

子どもにせがまれて、10/3に行った居酒屋にまた行った。この前行った時の新鮮さはだいぶ薄れていた。前より混んでいた。あの日常が帰って来るのか。

それでも、テンションがおかしくなっていたのだろう。ちょうど良い塩梅がわからず、少し注文し過ぎた。

 

【2021.10.31 日曜日】

小雨降るハロウィン。

息子が通う保育園のクラスのメンバーで、公園に集まってささやかにハロウィン的なことをする予定だったけど、かなり前から息子は「絶対に仮装はしない」と宣言していた。

「せっかくだから仮装したら…」と思う気持ち、でも、息子の意思も尊重したい気持ち、などが湧いたが、一番強い感情は「俺が息子の立場だったら恥ずかしくてできないだろうな…」だったので、放っておいた。

その結果、息子は『ハロウィンなのに仮装しない人』の仮装で参加した。それにしても、俺の幼い頃にハロウィンが浸透してなくて助かった。