リード・オンリー・メモリーズ

2017年 2月

『会話が溶けて混ざる』


妹が結婚するというので帰省した時に、父、母、妹、妹の婚約者、妻、息子の6人で集まって、チェーンの安い居酒屋で食事をした。

実家の近所にあるその居酒屋には、子供を自由に遊ばせるだだっ広いキッズルームがあった。我々が案内された座敷のすぐ横にその部屋があって、刑事ドラマでよく見る取調室のように、あるいは、水族館か動物園のように、大きなガラスの窓越しに中を確認できるようになっていた。

キッズルームの端っこに無造作に置いてある玩具は見るからにボロボロで、全体的にみすぼらしく見えたけど、一歳半の息子はその部屋を見つけた途端、居ても立っても居られなくて、目を輝かせながら、キッズルームに行きたいと暴れた。

仕方なく連れて行き、最初は俺や奥さんが付き添っていたが、刑事の取調みたいに部屋を見ていれば大丈夫そうだと思ったので、時々一人で遊ばせたりした。その後も、彼は玩具を両手に掴みつつ、その部屋と我々のいる座敷を行ったり来たりした。


注文をまとめる人がいなかった。

それで、ダラダラと各々が好きなものを注文して仕方なく俺が適当なことを言って乾杯した。父親は既にビールを1/3杯くらい飲んでいた。


しばらく一人で遊んでいた息子が座敷に帰ってきて遊び始めた。

妻が「上手だね」とブロックを積む息子を褒めた。

その直後に妹が自分勝手に「あ、この唐揚げ美味しい」と言い放った。

その隣にいた母が「ね。上手に揚げてるね」と2人の発言を混ぜた。あるいは、会話として繋げた。

その不恰好な会話が可笑しくて皆で笑ったが、父親だけはそれを見逃していた。


その後、父親は生まれてから今まで一度も食べたことない豚しゃぶを急に注文したが、保守的な舌の持ち主なのでやっぱり食べられなくて、残りを鍋ごと妹の婚約者にあげていた。

彼は嫌な顔一つせずに食べていた。

ああ、妹は優しい人を選んだらしいな、と思った。

 

 

 

おそらく1996~2002年の間のいつか。

『Kind Family Case』


父母俺妹の家族四人でケンタッキーフライドチキンを食べていたら、当時小学生だった妹がパッケージを見ながら母に「『KFC』って何?」と聞いた。母が「Kentucky Fried Chickenのことだよ」と答えたら、会話に加わらないでテレビを見ていたはずの父親が「…そんな答えでいいのか?」とちょっと大きな声で遮った。

父以外の3人とも、え?それでいいんじゃないの?なぜ少し本気のトーンなの?と不思議に思っていたと思う。

父は更に「そんな、いいかげんな、答えでいいのか!?」と追い討ちをかけた。

後でわかったのだけど、父は『KFC』を『経営不振』と聞き間違えていた。

普段は浅学を自称していいかげんなところも多い父だが、「娘の問いに本気で答えねば」と声を荒げたと思うと、味わい深い時間だった。

 

 

 

2018年7月と2000〜2009年頃。

『ひきだし』

 

朝、起きたら妻がリビングのテーブルで何かの書類を書いていた。会社に提出する書類らしい。シャープペンシルを使っていた。

「ふーん。シャーペンでいいんだ?」

「そう。変だよね」

あんまり提出物の書類がシャーペンでよかったことってねーなー、とか思いながらトイレ行ったり息子の保育園の準備をしてる最中も、頭の中に何かが引っかかっていた。

しばらくウロウロして、わかった。

「そのシャーペン、誰の?」

「え?私のだよ?私が使ってる引き出しにあったし」

あれ?そうか?

俺のだと思った。

ドクターグリップのシャーペン。

振ると芯が出てくる仕組が中学生の頃から好きで、分解してパーツを入れ替えたりして遊んでたんだよな。妻の使っていたシャーペンは、浪人時代に気合入れて勉強するために買って、大学時代もそのまま使ってたヤツに似てるんだけど、違うのか。

とか思っていたら妻が吹き出しながら「あれ、でも私、ドクターグリップとか買うかな?」と言うので「そうだろ!俺のだろ!」と二人で笑った。

蒸し暑い朝だった。一日が始まった。