2017年に観た映画類の記録

改めて見返すと、2017年に観た映画の殆どがラジオ番組『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』でレビュー済みのものか、その関連作のような気がする。

それ以外に観たのも、誰かが紹介したものが殆どだ。

実際、そうやって見た映画は見る価値のあるものばかりだが、それでいいのかな、と少し思う。事前情報無く、事故のように作品に出会えたらいいのに、とよく考える。

例えば、昔はレンタルビデオの冒頭に入ってた知らない映画の予告編を見て、面白そうだな、と借りた記憶がある。

思い出せるだけでも2本ある。

1本目は『ナッシング・トゥ・ルーズ』。

Nothing To Lose - YouTube

今見ても本編が見たくなる予告編だ。

観終わってみたら、想像してたより軽く感じた記憶がある。

この映画を見て以来、ティム・ロビンスは好きだ。『ショーシャンクの空に』の後に見たのか前に見たのかは思い出せないが、コメディでも抜群という点がとても好ましかった。

 

2本目は『セシル・B・ザ・シネマウォーズ』

セシルB予告 - YouTube

ああ、この予告編は本編より面白いパターンだな。

こちらは当時の自分には想像より意味不明な内容だった。もっと明るくカッコよく体制側と戦うような映画を想像していたんだと思う。

映画の筋やシーンは殆ど思い出せないが、主人公の着ていたジャケットだけは今でも時々思い出して欲しくなる。

 

この2作は特に賞を取ったりもしていないようだし、好きな人に会ったことも無い。

でも、俺は何だか面白かったと思ってる。

自分の今の生活圏内では、この2作のような変に印象に残る作品に出会えないだろう。その点に少し不満がある。

しかし、俺自身がDVDの予告編をマトモに見なくなったし、誰も評価していない作品を見る勇気が無くなったのかもしれない。失敗が怖いようだ。時間が有限だと実感したのも要因と言えるだろう。

2018年は失敗してもいいから事故に遭おうと決意している。

以下、例年通り、遡る形での記録となる。ネタバレという罪を犯している可能性は高いので、危険を感じた際には流し見をお勧めする。

  

12/30
スター・ウォーズ/最後のジェダイ』を観た。
過去作を踏まえたオマージュや引用を多用して丁寧にマナーに則った上で、サーガをぶっ壊して新たな神話を始めた。既存のスター・ウォーズ的装置が壊れるのも象徴的だった。

そのため、『予想』を裏切る要素が多くあり、それを『期待』の裏切りと感じた人もいたので、賛否両論になったのではないか。今までのスターウォーズらしからぬ点がいくつもある。

例えば、一つの戦闘状態の時間のみを描いた点は脚本的にはスッキリしているが、各惑星の人々の生活を描いていたゆとり部分が省かれたようにも見える。世界観の説明はもう必要無いという判断とも理解し得る。今までのスター・ウォーズに比べると、善悪の境界を曖昧にする描写(ルークの葛藤、カイロ・レンの葛藤らしきもの、DJという存在)が増えている点も、物語としての深みを与えている。脚本もジョージ・ルーカスやJJならすんなり気持ちよく終わらせる展開を、少しずつツイストさせて予想外の方向に行くのが面白かった。何より血統主義からの脱却は素晴らしい(評価が分かれる点だろうが、個人的にジャンプ漫画などに多用される能力の説明としての血統主義にはうんざりしてる)。

しかし、納得できない描写も多くて、なぜルークは実体で向かわなかったのか、ホルド提督の特攻はもっと早いタイミングでやれば良かったのではないか、というのはその最たる例で、脚本のためにキャラクターが動いてしまった場面があったように見えた。

いや、そもそも、そんな特攻可能なの?フォース便利過ぎでは?あれ、あの時、宇宙空間に重力存在してなかった?などという疑問は後からいっぱい出てきたが。

 

  

12/17
『葛城事件』を観た。
めちゃくちゃ細かくて凄みのある演技が連続する映像で、一瞬も目が離せなかった。

クソ屁理屈を堂々とのたまうクソ親父を演じ切る三浦友和、今までの役と雰囲気の違う抑えた演技の新井浩文、静かに確実に壊れていく南果歩、徐々に殺人を犯せる人間になっていく若葉竜也。全員が常に複雑な感情を表現していて凄かった。実は田中麗奈も素晴らしくて、物語ごと陳腐にしかねないキャラクターを、ギリギリのラインで演じている。

説明していたらキリがないけど、繊細な視線・動作・言動のやり取りによる描き方は、いちいち気になる。父は常に問題の解決が図れず、必ず原因の根本とはズレた相手を攻撃する。悲しいことに、その習性がそのまま次男にも受け継がれていて、最悪の事態を招いていた。常に『家族』という観念への問いかけは、とてつもなく鋭い。『最期の晩餐』について会話する束の間の擬似ホームドラマが父親にぶっ壊される描写も強烈だった。わかっていたけど、やはり取り返しはつかなかった。

途中で回想された家の新築直後の家族描写が忘れられない。あそこではっきりと残酷に年月が経ったことを突きつけていた。

全編で多用していたが、役者と観客の間に遮蔽物が置かれる映像は強く印象に残った。父親が店で30年見続けていた風景の狭さを知らせる映像にも、ゾッとした。

通り魔のシーンは強烈で、そういう場面を想像したことなかったと気づいたし、想像するならあんな地獄なのかと知って恐ろしかった。

 

 

11/27
『技術者たち』を観た。
隙の無い脚本をテンポの良い編集が軽やかに進めて、爽快なラストまで一直線に走る超一級のエンターテインメント作品。観て損しない。

主人公の能力値がどの程度なのかをギリギリまで明かさなかった点と、主人公の格闘能力が高くないという点が、ラストまで緊張感を保てた秘訣だと思う。

時々流れる少し前の韓国ドラマ風な音楽はちょっと不要に思えた。

  

 

11/12
スプリング・ブレイカーズ』を観た。

思っていた内容と全然違った。水着ギャルが楽しくマシンガンを撃ちまくるというワンアイディアの映画じゃなかった。始まって数分してすぐに何かの終わりが感じられるのは、『青春』の特性をよく表していた。冒頭の映像のノリがずっと続くバカ映画を想像していたので、陰鬱な内容に面喰らった。音楽もダンスミュージック多めだが、暗いことが多い。色味も殆どの場面で暗いブルー。影も多め。

じゃあ、若者たちの葛藤を描くのかな、と思ったら、そうでもなくて、彼女達の思考や気持ちはどんどん見えなくなっていき、徐々に西海岸のギャングが主役になっていき、最終的に残った女の子達は人間を超越した精霊や妖精のような存在感になって終わる。思い返してみれば彼女達はずっとそんな存在で、廊下で逆立ちしてるシーンの浮世離れした切なさは素晴らしかった。

『現実逃避』や『別世界への憧れ』が、あれほどの重犯罪への強い動機になり得るだろうか?という疑問は感じたが、そういえば、現実に起こる犯罪だって、全ての動機に納得できるわけでもなかった。

また、意図的なのかもしれないが、あまりに痛みを感じさせない暴力シーンは気味が悪かった。パーティのシーンだけが本物っぽかった。

 

 

11/6
『悪の法則』を観た。
運命は全てを決定してしまっていて、機械のように淡々と事態は最悪の結末へと流れていく。主人公達の行動の裏で多くの出来事が起きてしまい、主人公が全く物語の中心に関われないという構造もすごい。南米の麻薬カルテル周辺の残酷さの徹底ぶりには驚愕するのだけど、その凄惨な映像も淡々と流れる。その映像にはいろんなアイディアが詰まっているが、それが日常かのように淡々と描かれるのが怖い。

また、あまりに淡々としていたので、映画は直線的な時間しか表さないのか?いや、表せないのか?という疑問も生じた。

主人公とその恋人以外は超越者じみたことばかりを言うので、言葉が頭に入って来ないところがあって、少し寝てしまった。そのシーンを後から見返してみても、やはり頭に入って来なかった。ハビエル・バルデムの怪演やブラッド・ピットの渋いカッコよさも良かったが、妖艶かつクレイジーキャメロン・ディアスがこの映画の見どころを食い尽くしていた。それにしても、いつの間にこんなに迫力のある女優になったのだろう。これまで多く演じていた陽気でカルい女みたいなイメージは完全に一掃された。

 

 

11/6
Netflixで『ストレンジャー・シングス』(シーズン2)を観始めた。

 

 

10/18
アウトレイジ 最終章』を観た。
顔の映画。西田敏行塩見三省岸部一徳、金田時男らの顔の説得力が凄い。ピエール瀧が思ったより細かい演技をしていたのも良かった。強面かと思いきや、憎めない小物感があるという意味で名高達男と同じ枠にいた。池内博之も良い味出してた。

2作目が1作目の清算にあたる映画だったから、この最終章には2作目の清算を期待したが、そこまで爽快には終わらず、『ソナチネ』の頃のような憂鬱さが残った。後味の悪さと言ってもいい。それは観た後もずっと残っている。殺し方も今までほど派手さが無く、全体的に地味に感じた。『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』でインタビューや映画評を聴いてから観たので、拳銃の音には感心してしまったし、登場人物は上司論として見てしまったし、物語自体に会社的なものを凄く感じた。

 

 

10/15
Netflixで『マインドハンター』を観始めた。

 

 

10/11
スイス・アーミー・マン』を観た。
映画界のキング・オブ・コント。事前情報を全く入れずに観た方が爆発的に笑える。MV出身の監督というのがよくわかる映像の連続だった。スローモーションや綺麗な光を駆使して感動的な雰囲気を作り、音楽も感情に呼びかけるようなものを使った上で、とてつもなく馬鹿げた映像が流れる、という歪なバランスが凄まじい。観ている側はやり場に困る複雑な気持ちで笑うしかない。

リアリティラインのぶっ壊れた、もしくは、ぶっ壊した世界観の中で成立させている脚本も凄い。ダレそうになってくると、メニーの新機能を披露して爆笑と興味を持続させる。

思い返せば、オープニングからブッとんでてツカミはバッチリだった。メニーのズレた発言や、赤ん坊のような状態を表す発言も良くできていて、異様だった。

ラストシーンの、『登場人物が概ね唖然としているけど、そこに乗っている感情が不統一』という映像は何だか忘れられない。人間の感情が常に論理的な因果関係で動くとは限らない、というのが魅力的に描かれていた。メニーのブッとび方には、不気味な爽快感があった。

 

 

10/8
『バッド・チューニング』を観た。
始まる瞬間から終わることがわかっているから、青春は切ない。そんな瞬間が捉えてある映画だから、酷すぎる馬鹿騒ぎが本当にくだらなくて、ゲラゲラ笑って見ていたって、どこかずっと切ない気持ちが奥底にあった。

映画としても、俳優達の記録としても、青春の一瞬が見事に映像に収まっていた。今やトップスターになった、ミラ・ジョボビッチベン・アフレックマシュー・マコノヒー…といった面々の下積みっぽい若かりし頃を見るだけでも面白い。調べると、主役の俳優の活躍はこの映画にしか残らなかったみたいで、その刹那性がまた切ないのだが、彼の気高い美しさが素晴らしい。ずっと『桐島、部活やめるってよ』の東出昌大を思い出していた。

70年代を表す音楽がとにかくぶち込まれている感じはバカっぽくて良かった。日本の体育会系の部活にありそうな慣習がアメリカにもあることに驚いた。公開当時にしても、20年くらい前を描いているので、やっぱりみんな笑って見ていたのだろうか。

そう言えば、この邦題、全然原題と違うのに良い英題。

パーティは終わる。選択は成長。成長は切ない。

 

 

9/20
『コップ・カー』を観た。
素晴らしかった!冒頭、アメリカの広大で野生的な大地に太陽の光が降り注ぎ、ずっと見ていられるような美しい風景が映し出される。そこに、少し反抗期に入った未完成な少年達の姿が、瑞々しく描かれる。その美しい映像に、ノイズのように混じり始める死体や拳銃のような物騒なもののミスマッチさには強烈な印象を受ける。そして、徐々に日が暮れていって、美しい景色が見えなくなっていく中で、イタズラは壮絶な事件を呼び、物騒なものに違和感が無くなっていく。

途中から全く展開は予想できず、常に緊張状態になる。人物の細かい位置関係や間が重要なこの脚本はメチャクチャ巧い。それに、もっと単純な『ホーム・アローン』のような『子ども対怖い大人』を想像していたから、かなり驚いた。終わってみれば、悪いことをした子供が罰を受ける通過儀礼のような話になっているのも面白い。

ケビン・ベーコンの演じる怖くて悪い大人は流石だった。ランニング姿で汗だくで走ってる姿には笑ってしまう。

二人の無垢な少年が成長していく様子もすごく良い。 そして、ラストシーンで暗闇を照らす赤青の光に感動してしまう。

  

 

9/17
建築学概論』を観た。
日本で昔やってたメロドラマって感じだった。寝ているヒロインにキスする主人公や酔っ払った女の家に押し入る男は単純に気持ち悪いし、どう考えても犯罪なのに劇中であまり責められていなかったのが不思議だった。最大の見せ場であるらしいキスシーンも、全然納得できなかった。なぜあのキスの後に何も無かったように話が進むのか。二人は落ち込んでいるようだが、過去と折り合いがついたという区切りとしての描写なのだろうか。話の流れとして二人は初恋の相手とようやく結ばれたとしか思えず、もし一緒にならないのだとしたら、何らかの葛藤が必要なのではないか。説明過多を防ぐべく敢えてそういう描写を省いたとしたら、それは上手くいってるようには思えず、現実的な妥協を選択したとしか思えない。あっさりと現実に負ける脚本も演出も嫌いだ、怠慢だ。

主人公の友人の過剰過ぎるコミカルさはストーリーの地味さを少し救っていた。

マジで家をリノベーションしてるのは面白かった。後で知った建築学概論と恋愛のリンクについては巧いとは思うが、見ている時には気づかない、というか、気づいても何とも思わない。どうでもいい。

 

 

9/14
Netflixで『LOVE』を見始めた。

  

 

9/14
スパイダーマン:ホームカミング』を観た。
概ね楽しく観たのだが、何かスカッとしなかった。原因はヒーロー映画にスカッとする事態を期待し過ぎたから、かもしれなかった。アイアンマンさえいればこの映画で起きている現象全てを解決できる点がずっと気になったし、アイアンマンに認められるための展開としてはスパイダーマンの見せ場の少なさも気になった。ストーリー展開として、アイアンマンのピンチを救うか、アイアンマンの想定を大きく超える敵を倒さなければ父親超えにならず、ヒーローへの成長も感じられないように思えた。そのためには、今回のコソ泥のような敵は小物過ぎた。マイケル・キートンのオヤジ全開演技は良かったけど。

それと、主人公が公益としての正義とプライベートの恋愛で迷って正義を選んだ理由もよくわからなかった。葛藤として成立しているのだろうか。それに、「弱い人間じゃダメだ」→「あきらめない」という簡単過ぎる思考の変遷で、成長を描けているように思えなかった。

それらを除けば、今までのスパイダーマンと違って全体的に明るい雰囲気で仕上げているのと、ティーンムービーとしての軽やかな青春感は、非常に新しくて良かった。そのために「大いなる力は大いなる責任を伴う」のくだりや、家庭環境の暗さを思い切って省いてるのがすごい。アクションもアイディアが多彩で面白かった。

 

 

9/12
ベイビー・ドライバー』を観た。
最高だった!映画館で観てよかった!観たその日にサントラを買ったのは久しぶりだった(1度目は『パプリカ』)。一曲ずつ聞き直していくと、殆どの曲で場面が思い出せて、追体験できるのがすげえ。音楽が鳴りっぱなしでMVのようでもあったが、どちらかと言えば、前評判通りに車が踊っていた。いや、主人公も銃撃も音楽に身を任せていた。音楽が少しでも好きなら、イヤホンで聴きながら少しノッて体を揺らす経験はあると思うが、それを最大限拡大するとこういう映画になる。冒頭のカーチェイスからオープニング長回しが、その内容の紹介になっていて、いきなりアガッた。

また、全く予測できない展開も面白い。 ところどころ、これまでのエドガー・ライト的なバカなテイストは感じるが、総じてクールでロマンチックな雰囲気で、こんな作品作れるんだな、と驚いた。引用してるっぽい映像も沢山あって、見どころは尽きない。

 

 

6/29〜8/29
Netflix『13の理由』シーズン1を見終わった。
海外ドラマは元々その傾向が強かったと思うが、Netflix作品は更に物語のヒキが強くなった気がする。とにかく先が気になるようにできている。俯瞰して引いて見てしまうと、物語として面白いのかよくわからない。例えば、これが2時間の映画にまとまってたら、退屈なんじゃないか。しかし、ストーリー構成がめちゃくちゃよく出来ているので、ついつい見てしまった。

結果的に、『13の理由』の全てが直接自殺を促したようには思えないが、ティーンは悩むし、悩みの積み重ねが自殺を促した、と感じられる構成も上手い。時間軸を複雑に入れ替えているので混乱しそうな部分は、髪型や傷の変化で描き分けていて、それもまた上手かった。総じて、人種差別や性差別があまり無いように見えるリベラルな人々を描いているのに、それでも誰かが誰かを傷つける事態には、人の世の生きづらさを感じずにはいられない。キャラクターは皆かなり誇張された性格で、個性豊か。いろんな行動を取るが、はっきりと好き嫌いを感じられることが多かった。

ラストは全ての事態の結末までは描いていなくて、自殺と自殺が引き起こす社会的な影響について考えさせる作りになっていたと思う。考えてみれば、並行して、主人公のクレイの成長物語にもなっていた。

 

 

8/13
それいけ!アンパンマン ブルブルの宝探し大冒険!』を観た。
昨年の映画もテレビで見たが、プロットはあまり変わらないようだった。アンパンマン達の生活圏の外部から来た未熟な来訪者が、アンパンマンファミリーとの触れ合いと冒険を通して成長する話。

昨年はクリームパンダやカバオが活躍していたが、今年はカレーパンマンが活躍していた。映像としては、昨年同様、若干テレビより動く。ばいきんまんはテレビより凶悪度が少し高い。全体通して毒が無い。子ども向けにはいいのだろう。 

 

 

8/13
ドント・ブリーズ』を観た。
90分間ずっと緊張と興奮で満たされていて、幸福だった。映画館で体験したかった。

事前情報通り、序盤は狂った盲目ジジイ版『ホームアローン』的サスペンスホラーだが、後半に進むにつれて、善悪も全然無くなって、展開の予想がつかなくなる。まず、とにかく脚本が素晴らしい。『強盗3人』と『一つの建物』という制限で飽きずに展開できるのかよ、と半信半疑で見始めたが、空間・小道具・アクションをめちゃくちゃ上手く使いつつ、ずっと先が気になるように作っていた。その点で『パニック・ルーム』を思い出した。

そして、その洗練された脚本を、長回しなどを多用しつつバッチリ映してる。テンポ良過ぎるくらいにスムーズに移り変わる状況を不足無く捉えていた。

老人怖過ぎ。モンスターとしての演出がバッチリはまっていた。

 

 

8/6
『シング・ストリート』を観た。
しっかりと、少年が青年に成長する時間を捉えていた。ボーイミーツガールの瞬間には、さえない主人公の男の子と派手なファッションを着こなす美しいヒロインは明らかに違う世界の住人に見えたのに、映画が終わる頃には主人公は女性と並び立てるほど立派な男になっていた。ヒロインが少しだけ普通の人間側に下りてきたという面もあるけど、そのほろ苦さも悪くない。

その成長の過程に、音楽の喜びや作品制作の楽しさが存分に伝わってくる映像満載で、見てるだけでとてもワクワクした。MVも、歌も、音楽も徐々に質が向上する。そのバランスが無理が無くてかなりいい感じだった。

  

 

7/23
となりのトトロ』を久々に観た。
何回目だろう。大人になってちゃんと見直したのは初めてだ。子供の頃に死ぬほど見ていたので、若干侮って流し見した部分もある。

一番はじめに気づいたのは、背景と手前にいるキャラクターが、全く違う作画になっていたという点だった。背景はいわゆる風景画で、キャラクターは輪郭線を持ったイラストっぽさがあった。また、アニメーションの動く喜びと言えると思うが、キャラクターの一つの動作の中に沢山の無駄な動きが足されていることに驚いた。そういう動作の一つに、最初にいなくなったメイを見つけたサツキの表情がある。彼女は、ホッとして微笑んでから、メイを叱って起こす。サツキは母親代わりになろうとしていたし、そういう表情をしていた。

また、小学校にサツキを追いかけてくるメイの表情には、昔から何か感じるところがあったが、それは極めて個人的な妹との記憶なのかも、と初めて思った。

脚本の中で最後にメイとサツキがうまくすれ違っていくのが、よくできていた。両親は大した出来事だと思っておらず、村の人たちともギャップがある。この情報量の差は面白いし、リアルだと思った。

おそらく、ラストの話は映画だから作った見せ場で、本当はずっとメイとサツキがトトロと触れ合うアニメにしたかったのだろう。

 

 

5/27
ワイルド・アット・ハート』を観た。
字幕の杜撰さ、許せねえ…フォントは読みづらいし、訳はダサい。なんだ、このDVD!

それでも、俺の大好きなロードムービーだった。思ったより全編音楽が鳴りっ放しだったけど、タランティーノと違うのは不穏さ。ニコラス・ケイジの動きのキレもカッコいい。クールだ。そして、寺山修司とかも想起する見世物小屋みたいに変な登場人物達。特にウィレム・デフォーはやばい。目つきと歯が恐ろし過ぎる。爆笑。

この監督は恐怖を突発的な驚きとかでは無く、気持ち悪さや不気味さや嫌な気分で表現するのが凄い。そして、妄想なのか幻覚なのかわからないが、そういうオカルトっぽい現象が物語と登場人物を動かすという馬鹿らしさが素晴らしかった。飛び抜けて馬鹿らしかったラストが最高。

 

 

5/5
ズートピア』を観た。
まず、脚本がとにかくよく出来ている。残酷描写皆無で、アクションもサスペンスも謎解きもあるクライムエンターテイメント映画に仕上げていることに驚嘆した。話の展開だけ追えば、エルロイ的なフィルムノワールと何ら遜色無い。次々に物語が展開するスピード感も凄い。

また、『48時間』を彷彿とさせるバディムービーでもあって、それも気が利いてる。

その『子供が視聴可能である』という土台を作った上で、誰もが(主人公でさえも)抱きかねない差別や偏見を批判する教訓的なテーマを盛り込んでいるのが凄い。

そして、舞台となるズートピアを表現するCGの美しさ。ディズニーが空想する夢の国がここにあった。キャラクターの表情も動物の動きも今はCGでここまで生々しく表現できるのか、と驚いた。

 

 

5/2
『T2 トレインスポッティング』を観た。
前作のオマージュやそのまま前作の映像で回想する懐古的な映像の連発で、俺がどれだけ『トレインスポッティング』を好きだったかというのを思い知らされて、身悶えした。これはインディ・ジョーンズスター・ウォーズの続編に感じたファンへの接待感にも似ていた。俺は小説も買っていた。きっと10代の将来を悩む気持ちに、あのノーフューチャーな姿勢がカッコよく見えたんだ。

今思えば、前作で思い出すシーンの殆どに音楽もついてくる。やっぱりかなりMV的だった。今回もその傾向は健在だ。監督はだいぶ大御所になって演出する力も色々と洗練されたはずだが、斜めになり続ける画面などにトレインスポッティングらしい荒削りな感じが出ていた。

映画における音楽は無理矢理気持ちを高揚させてしまうドラッグみたいに感じているので、使い過ぎることに肯定的ではなくなったけど、トレインスポッティングに関してはこれが正解だろう。前作よりストーリーがちゃんとあって、過去との付き合い方、過去との戦いを描いていた。レントンとシックボーイの狂騒に男子校ノリを見た気がしたのは、新しい視点だった。現実を見る女性陣との対比で余計にそう感じたのだろう。前作を改めて観たような気分にもなるし、観直したくもなる映画だった。

 

 

3/21
『その男ヴァン・ダム』を観た。
落ち目になってしまったヴァン・ダムの現在を皮肉ったパロディ映画なのだが、彼が主戦場としてきたハリウッド的大衆映画ではないことに驚いた。ベルギー・フランス製作の映画なので、ヨーロッパ的アート映画っぽい雰囲気で、いろんな皮肉へのアプローチの仕方も落ち着いたブラックユーモアに満ちている。

展開も一筋縄じゃない。映画の彼岸を超えて現実のヴァン・ダム本人に接続したかのような、あの映像が撮りたくて撮った映画のように思える。反則気味だったけど、今までのヴァン・ダム映画の中で一番面白かった。ヴァン・ダムのリアルな肉体的強さもリアルなスター性も面白かったが、ヴァン・ダムをああいう風にイジっていたのが最高だった。イジリ解禁か。

 

 

3/15
ヒメアノ〜ル』を観た。
何と言っても森田剛

空気として纏っている弱い心ゆえの暴力性、包丁持って突き刺すあの動作の体重の乗り方。全てがヤバイ。

演出も素晴らしい。森田のシーンは彩度が無く、岡田のシーンと執拗に対比させる。映画の真ん中でラブコメからバイオレンス映画に反転するアバンタイトルも見事だった。ムロツヨシの演じる安藤は見た目も気持ち悪くて、ストーカー気質だけど、犯罪までには踏み込まない。物語的にはミスリードとして機能していたが、現実に本当にヤバイものを描くための対比なんだと思う。人畜無害を佇まいで表す濱田岳や、クラスにいそうなちょうど良いかわいさのヒロインも影の功労者。このギャグと暴力が入り乱れる古谷実節をここまで映画に落とし込んでるのは凄い。ラストシーンの救いの無さが、観客を安心させなくて重たい余韻が残った。

やっぱり何と言っても森田剛

 

 

2/24
スクール・オブ・ロック』を観た。

子ども達の愛らしさはズル過ぎるくらいだけど、ラストのこれ以上無いくらいの大団円っぷりは見てて笑いが止まらない。

ジャック・ブラックはイロモノ俳優としてしか見てなかったし、今もそう思ってるけど、この一作があるだけで、だいぶ印象が違う。ド派手で情けない負け犬っぷりや、メチャクチャ過ぎる顔と行動を、笑える表現に昇華するこの役は彼にしかできない。

なんか見たことあるストーリーだと思ったら、『天使にラブソングを』だ。でも、今作を観て救われる人の方が多いだろう。

 

 

2/13
Netflixで『火花』を観始めた。
どんなショット一つ取っても映画の佇まいで、美術も含めて画の作り込みが凄いクオリティだった。ロングショットの多用と説明の少なさが映画っぽさを作るのだろうか。漫才と会話のシームレスな感じや、逆に普通の人の会話が漫才に聞こえるのは、かなり意識的な魅せ方だと思う。

 

 

1/28
この世界の片隅に』を観た。
途中まで楽しく力強く小さな幸せと共に描かれていた日常が、戦争という暴力による断絶によって大きく反転する。どれだけ辛さに侵されても、どれだけ全てが疲弊しても、生活する力で立ち向かっていくのがすごい。生きるしかない、とわかる。戦時中に生きていた人のリアリティを初めて感じられた。

また、戦争と日常が地続きで感じられる説得力も凄い。終戦の次の日も生きるしかないんだ。ある暴力(による喪失)の描写は火垂るの墓以来のトラウマ級だった。

最初嫌な人に見える義姉や、最初トロく見える主人公のキャラクター設計は綿密に逆算して作られていた。アニメならではの実験的な映像も素晴らしくて、この原作に対してアニメという手段の選択が正しかったのだと思った。

そして、久々に思い出した『ライフ・イズ・ビューティフル』。あのトラウマ体験となった物語構造を。

 

 

1/15
ONCE ダブリンの街角で』を観た。

全編通して音楽が鳴り止まない。ある種ミュージカルのように、俳優達が歌う(奏でる)曲が心情を表現していた。

貧困や移民問題などの社会的背景が描かれるし、ダブリンの本物っぽい街並みにもそれが映り込んでもいる。

女性の若干のエキセントリックさは、脚本の都合のためのキャラクターに少し見える。低予算の自主映画っぽさが瑞々しさを作る。海のシーンにある幸福感には、終わりを感じさせる切なさが伴う。ドキュメンタリータッチにも感じられる。

大人になってしまった人たちの最後の青春音楽映画として、最終的な結果には納得。

 

 

1/9
最後の追跡』を観た。
Netflixオリジナル、ここまでやるか(後で調べたら日本において配信が独占なだけだった)。映像も脚本も隙の無さが凄い。アメリカ南部の社会状況が色濃く焼きついていて、貧困・銃社会・人種差別が根深く見えた。その土壌を強く意識させた上で、強盗する側の気持ちも状況も丁寧に描くから、単純に犯罪行為を悪いと思わせてくれない厳しさがあった。強盗が一般市民(自警団)から乱射されるシーンなんて見たことなかった。

ラストシーンは、撃ち合っていないのに張り詰めた緊張感があって、現代での西部劇を成立させていた。一方で全体的に登場人物と展開に独特の脱力感もあって、『ファーゴ』や『ノー・カントリー』みたいなコーウェン兄弟っぽさがあった。犯人達の兄弟愛も、ジェフ・ブリッジスの孤独を抱えた渋さも、大変魅力的だった。

 

 

1/4
『ローグ・ワン スターウォーズストーリー』を観た。
どうしても結末がわかる状態から進んでいくことになるので、悲哀が滲み出ている。これまでのスターウォーズより感情的な演出が多くてアツかった。機械の設定などはエピソード4に持ち越されなければならないために、一見チープに見えるデザインや、非効率的な構造をしているのが目立った。ラストのタワーのシーンは急にミッションインポッシブル風で驚いた。

座頭市風のドニー・イェンが強過ぎて、かっこ良すぎる。それに尽きる。

 

 

2016/12/23〜2017/1/4
ストレンジャー・シングス』(シーズン1)を観終わった。
かすかにシーズン2への引きを保ったまま終わってはいたが、このまま終わりでも成り立つ。

展開としてサスペンスとSFとアドベンチャーの間で綱引きしていたけど、結果的に殆どの登場人物の成長物語になっているという、ドラマ性の上手さが決め手だったように思う。そのドラマの軸がしっかりしていたから、バランスを崩さずに物語的な緊張感を保っていられた。登場人物がいろんな班に分かれていて、それぞれが受け持つジャンルが違うドラマを最終回で怒涛の勢いで交錯させ、見事に集約していた。やはりキャラクターの分け方と魅せ方が上手かったことも勝因だった。

 

2016/12/29
ストレンジャー・シングス』(シーズン1)の4話を観た。進んでいるのに全然終わりにたどり着ける感じがせず、なおかつ面白いという奇跡のような状態を保っている。

 

2016/12/23
ストレンジャー・シングス』(シーズン1)を観始めた。
とにかく先が気になるようにできている。キャラクターもそれぞれ際立っていて面白い。往年の浦沢直樹作品を読んでる感触に近いかもしれない。舞台となる80年代は名作揃いで、それらを直接の引用にしているのかはわからないが、それらの面白い要素をガンガン入れ込んでいて、今のところ作品になるようにバランスよくコントロールできている。影響や引用だと少しでも感じたものを挙げるなら、『AKIRA』『ツイン・ピークス』『E.T.』(スピルバーグっぽさ)『スタンド・バイ・ミー』『ビバリーヒルズ高校白書』などだろうか。現代では映像演出にもDJ的な素養が求められているのかもしれない。